師の心に棲む夜叉

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「保憲様?」  さらに近づいてきた保憲に、晴明はきょとんとする。悪ふざけにしては、やけに至近距離。あと少しで、額がぶつかりそうなほど。しかもその目は、やけに冷めきっている。先ほどまで酒を飲んでいたはずなのに、その熱さえない。 「俺が望むのは」 「望むのは?」  その瞳に、囚われそうな錯覚に襲われる。なのに、晴明は目を逸らすこともできず、ただ師匠の黒い瞳を見つめる。  いつも毅然と自分の前に立ち続ける人。自分に指針をくれた人。その人が、一体まだまだ天文学生の自分に何を望むというのか。 「君に調伏されること」 「ーー」  戯れにしては、あまりに不穏当な言葉。それも、陰陽頭という、宮廷陰陽師のトップが口にするには、あまりに禍々しい言葉。 「ふっ」  軽口で返すことを忘れてしまった弟子の顔を堪能すると、保憲は身を離した。そして何事もなかったように微笑む。
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