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「私の心には化け物が、夜叉が棲んでいるんだよ」
「ほう」
急な告白にも、安倍晴明はもちろん驚くことはない。どうせ酒の席の戯れだろう。そう受け流す。だが、問題の発言をした師匠の賀茂保憲は悠然と微笑むのみ。
場所は一条にある晴明の屋敷だ。唐突にやって来た(いつものことだが)保憲と、望月を眺めながら酒を飲んでいただけ。
「こうして陰陽頭になれたのも、その夜叉のおかげさ」
「なるほど」
続いて吐き出された言葉に、晴明はそういうことかと得心がいく。それなら、晴明が保憲の弟子であるのも、その夜叉のせいということか。
「君は相変わらず説明不要で頼もしいねぇ」
あっさり了承した弟子に、保憲は面白そうに笑う。その声はどこまでも楽しそうだ。
「では、保憲様。もはや欲するものを手に入れた夜叉が、次に望むのは?」
どうせこちらが本題だろうと、晴明は笑い掛ける。どうせ戯れと、にんまりと。しかし、保憲は唐突にすっと目を細め、その口元から笑みを消した。
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