師の心に棲む夜叉

1/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「私の心には化け物が、夜叉が棲んでいるんだよ」 「ほう」  急な告白にも、安倍晴明はもちろん驚くことはない。どうせ酒の席の戯れだろう。そう受け流す。だが、問題の発言をした師匠の賀茂保憲は悠然と微笑むのみ。  場所は一条にある晴明の屋敷だ。唐突にやって来た(いつものことだが)保憲と、望月を眺めながら酒を飲んでいただけ。 「こうして陰陽頭になれたのも、その夜叉のおかげさ」 「なるほど」  続いて吐き出された言葉に、晴明はそういうことかと得心がいく。それなら、晴明が保憲の弟子であるのも、その夜叉のせいということか。 「君は相変わらず説明不要で頼もしいねぇ」  あっさり了承した弟子に、保憲は面白そうに笑う。その声はどこまでも楽しそうだ。 「では、保憲様。もはや欲するものを手に入れた夜叉が、次に望むのは?」  どうせこちらが本題だろうと、晴明は笑い掛ける。どうせ戯れと、にんまりと。しかし、保憲は唐突にすっと目を細め、その口元から笑みを消した。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!