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「どけえええええっ」
あいつらが突き出してきた刃物がわたしの腕をかすったけれど、分厚い皮膚はそうそう切れない。
鱗が数枚、ハラリと道に落ちた。
ニンゲンのままだったなら、ぱっくりと切れていたところだろう。
「バケモノに変身していてよかった…」
わたしがつぶやいた言葉に、不思議そうにあいつら、いやニンゲンがこちらを見上げた。
いけない、いけない。
わたしは軽い力で、ニンゲンの男を突き飛ばした。
男は大げさに吹っ飛んでいった。
「イヤッ、なにするの!」
ニンゲンの女が男に取りすがる。
さっき、「バケモノ」と悲鳴を上げていた女だ。
怪我はさせていないはずだけど…と思いながら、わたしは小さな声でいった。
「あんたたちの醜い顔なんて見たくもない、早く行って!」
「み、見逃してくれるの…?」
男と女はびっくりしたような顔をしながら、慌てて逃げていった。
「…大丈夫?」
わたしはまだ座り込んでいる友だちの手を取り、ぐいっと引き起こした。
まだ震えている。
よほどニンゲンが怖かったのだろう。
力ではバケモノのほうが強いのに。
「ありがとう。助かったよ…」
「ううん、いいの、気にしないで。それより歩ける?」
「うん…。…それにしても、あいつら…ニンゲン? 生で見たのはじめてなんだけど、すごいね。肌がツルツルしてて、ほんと気持ち悪い。体もひょろひょろしてるしさ…。でも、見逃してあげたんだね。やさしいね」
「そんな、やさしくなんてないよ…」
隣にいるのは、その「ニンゲン」なんだよと思いながら、わたしは相づちを打った。
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