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「博士。博士はなんでわたしのことを助けてくれたの」
「どうしたんだい、急に」
わたしは博士に、今日ニンゲンに会ったこと、ニンゲンはひどく嫌われて、気持ち悪がられていたことを話した。
そして、そんなニンゲンにどうしてこんなに良くしてくれるのか不思議に思っている、ということも。
「今から150年ほど前、わたしたちバケモノは反乱を起こして、ニンゲンの街を、暮らしを、乗っ取ったんだ。それまでわたしたちは、今のニンゲンと同じように闇にまぎれて隠れて生きていたんだよ。それは知っているね?」
「うん、博士が教えてくれたから知ってる。でも政府はそれを隠したがっているんだよね。バケモノたちは最初から『こう』だったって。それで、ニンゲンも最初から今みたいに薄汚い暮らしをしていたって。嘘の歴史を公表しているんでしょ?」
「そう。だがわたしはそんなことは許せなかった。車も、学校も、映画館も、研究所も、すべてニンゲンが造ったものだ。それを奪い、さも自分たちが生み出したかのように喧伝するなんて…。ニンゲンは、こんなに素晴らしい技術と文化を生み出せる生き物だ。だからニンゲンとバケモノは、もっとお互いの存在を認め合い、高め合い、共に生きていけるはずだ。そのためにはどうしたらいいのだろう…そう思っていたときに、君を見つけた。…最初は、研究対象として、そして自己満足のための『道具』としか見ていなかった。けれど…」
「今は、『家族』として愛している?」
わたしがニヤニヤ笑いながらそういうと、博士は恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ほら、ニンゲンに戻ってきているぞ」
薬の効き目が切れてきたようだ。体型も縮んできている。
脱げかかった制服を押さえながら、わたしは洗面所に行き、鏡を覗き込んだ。
もう顔の色は肌色に戻ってきていて、鱗も消えかかっている。
さて、そろそろお風呂に入って、明日の学校の支度をしなければ。
「わたしは、バケモノなのか、ニンゲンなのか…」
鱗が数枚残った腕を鏡に伸ばし、輪郭をなぞりながら、わたしは小さくつぶやいた。
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