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今まで欲しいものは何でも手に入ってきた華音は初めて壁にぶつかった。
わたしの夢が叶わないなんてあり得ない、ごねてはみたが懐事情が変わるわけもない。
「華音、いくらなんでも我儘すぎるよ。東京は諦めなさい」
不安な状況の中、普通の大学ではなく希望通りの音大に通わせてもらえるのだから感謝すべきだ、と涼音に冷静に諭されて諦めをつけたが、幻に終わった花の東京生活への未練は今でも捨ててはいない。
仕方なく地元の音大に入り、ブロッサムズの末席を担ってはいるが、親の経済力が激減したおかげで肩身が狭い思いをしているところだ。
菫の実家の超リッチぶりは桁外れなので除外するとしても、1年前までなら芹香の親となら肩を並べられる程度の経済状態だったはずなのに。
今だって中流家庭の子女よりはマシなのだが、一回のディナーに普通に万単位使ってしまう菫とは校内ではともかく、街中では経済的に付き合いきれない。
自分がトップではない状態なんて高校時代ならありえないことだと認めなかった華音だが、今は自分の立ち位置に不満を感じながらも受け入れざる得ない状況だった。
学内で一番人気のあるブロッサムズ3人の3番目、それが今の華音のポジションだ。
かつての栄光を思えば、心地よい立ち位置とは言えない。
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