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「あ、あのっ、そういうことじゃなくて……」
言ったことを取り消したいが、一旦口から出てしまった言葉をなかったことに出来るわけもない。
「結婚してくれなくても結構だよ。
俺はまた誰か別の人を探すことにするから。
それで、もし見つからなければずっと独身のままでもいい。
『結婚してあげます』と言われて結婚して貰わなくちゃいけないほど落ちぶれていないつもりだ」
内容にそぐわない淡々とした口調に、かえって憤りを感じた。
「そういう意味じゃないんです! わたしの話を聞いてください」
「どんな意味があるんだい? こっちを見てどういうことか話してくれないか」
強い口調に顔を上げると、安斎の顔は怒りからか赤らんでいる。
4年近く付き合って来たが、日ごろ温厚な安斎の怒った顔を見るのは始めてだ、他人事のようにそう思った。
「……まずは椅子に座って」
「はい」
あやつり人形のようなぎこちなさで椅子へ戻ると、頭の中を整理する。
ひび割れた下唇を噛むと、おずおずと語り始めた。
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