君の声が聞きたかったんだ

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「ちょっと世界を救ってくるよ」  そう言い残して村を出ていったトオルがゾンビになって帰ってきた!  村の外れにゾンビがいて、浄化魔法をかけようとしてよく見たら、あたしがずっと待ち続けていてた恋人の変わり果てた姿だった。  もう嬉しいやら情けないやら。  いったい何があったのよ。  この辺にはゾンビやグールなんかいないのに、どこまで行ったらそんな事になるんだか。  あたしは彼めがけて一目散に走り出す。  ねえ、魔王なんかもうとっくに倒しちゃったんだよ。  みんな元の世界に戻って、クラスメイトで残ってるのはあたしだけなんだから。  あの頃のあたしは頼りなかったよね。外れスキルしか貰えなかったから、いつもみんなの後ろに隠れててさ。  すぐ死んじゃいそうだったあたしを守るため、一人で頑張ろうとしたんだよね?  カッコつけすぎなのよ。  チートスキル持ちでもないくせに、一人で世界なんか救えるわけないじゃない。  そりゃね、あたしだって悪かったと思ってる。  人の話を最後まで聞かなかないのも、すぐカッとなって手が出ちゃうのも、あたしの悪い所だし反省してる。  魔王を倒した後、あたし一人、こっちに残るって宣言したら、みんな驚いたんだよ。  みんなが持ってるもの全部あたしに残してくれたから生活には困らなかったけど、いつまでもトオルが帰ってこないから淋しくて何度も泣いたよ。  みんなと一緒に戻ればよかったと思ったのだって一度や二度じゃないんだ。  でもトオルは帰ってきた。  すごい遠くまで行ったのに。  汚れてボロボロになって、人じゃない何かになっても戻ってきてくれた。  トオルも戻ってきたかったんだよね。  辛いことや悲しいことがいっぱいあって、何度も泣いたり挫けたりしながら帰ってきたんだ。  ずっと会いたかった。  話がしたかった。  声が聞きたかった。  村の外れまで走り続け、トオルのところへたどりついた頃には息も絶え絶えになっていた。  だめだぁ。  もうずっと全力ダッシュなんしてしないからキツイったらありゃしない。  膝に手を突いて息を整えながら、あたしはトオルと少し距離を置いて対面する。ほんとはすぐにでも抱きしめたいけど、まだ早い。  トオルがダメになったのは、ここを出てすぐだったようだ。ボロボロだけど懐かしい高校の制服を着たままだ。  それでゾンビがどうやって今まで状態を保っていたのか不思議だけど。  ……さて、どうしよう。  少し落ち着いたあたしは背筋を伸ばし、腕組みをして考える。  さすがに浄化しちゃダメだよね。  アンテッドを人間に戻す方法ってあったけ?  たしか治癒系と浄化系を組み合わせた魔法でそんなのがあった気がする。クラスメイトの誰かが使ってたハズだ。  神聖魔法は得意だったけど、昔のことすぎて思い出せない。    もういっそ、二人でアンデッドになってこの世界をさまようのも悪くないかなあ。一緒にいられるなら、なんだっていいや。 「ねえ、どうしたらいいかな?」  何気なくトオルに言葉を投げかけたら、声に反応して彼は顔をこっちに向けた。  わずかに残った瞼を見開くように動かして、どんより濁った瞳で私を見つめる。  視線が合った途端、トオルは急に驚いたように仰け反った。  あたしもびっくりして彼を見つめていたら、 「……バ、…………バ」    ガバッと大きく口を開け、必死に何かを言おうとしている。  40年ぶりに聞くトオルの声だ。  彼はきごきない動きで右手を上げると、震える指であたしを指差し、 「……バ、……ババア」  あたしは迷わず浄化魔法をトオルに使った。
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