悠木屋

1/2
前へ
/42ページ
次へ

悠木屋

東京の浅草寺近くに和菓子の老舗”悠木屋”がある。 建物も200年の歴史をそのまま受け継いで戦災からも逃れた文化財でもある。 今は和菓子だけではなく洋菓子も有名で明治維新から西洋の食文化を取り入れ国内でもパン作りをいち早く始めた有名店だ。 しかし6代目の悠木純一は洋食に興味を持ち和菓子店舗の隣に、(ユウキサラヤ)の屋号で洋食屋を始めた。その当時は洋食は珍しく特にハンバーグの人気は凄まじく開店前から長蛇の列が出来ていた。 そして都内に店舗を増やし、現在は海外の主要都市にも店舗を展開するまでになっていた。 純一の孫、悠木美代は日本人離れした美貌の持ち主で当時映画会社や芸能プロダクションの関係者が日参するほど有名だったが、美代は全くその気がなく23歳でサッサと結婚してしまった。 ところが美代は結婚後すぐに誘拐事件に巻き込まれ行方不明となってしまった。自宅から連れ出されたようで部屋は荒らされ血痕も残されていた。警察は強盗誘拐事件として捜査が始まり当初は多くの情報が集まったがどれも本人ではなかった。 そのうちに情報も年月と共に次第と減って行った。 身内を始めとして多くの関係者が何度となく調べられたが恨みを買うような事もなく痴情のもつれ等もなかった。ただ高校生の時に襲われそうになった事があり、その犯人も調べられたがアリバイがありシロ判定だった。 本人が気付かないうちに誰かが少しずつ慎重に長い時間をかけて計画してストーカー行為をされていたのかもしれなかったが、どこにもそういった証拠や人物を見つけ出せなかった。 それでも兄の純次や旦那の政人は情報があれば全国くまなく出かけて探し回ったが結局、見つける事は叶わなかった。しかもほとんど足取りさえも掴めずただ共通の情報が多かったのは東京駅での目撃情報だけだった。 駅でのチラシ配りは10年ほど続けたが結局止めてしまった。 事件から20数年の年月が経った今でも美代は見つからないままだし、この事件の事は悠木家のみんな口を閉ざし封印してしまった。 それから今度は純次の長女悠木桜子がレイプ事件に巻き込まれてしまっていた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加