平泉にて

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平泉にて

母の手掛かりは津波被害があった東北の何処かの病院にいるかもしれないけど、どこから手を付けていいのかも分からないし、ましてや病院に問合せても個人情報は教えてくれなかった。そして何の進展もないまま虚しく日々は過ぎた。 ある日サララはTVの歴史旅番組の仕事で宮城の平泉へ2泊3日のロケで出かけた。時間が取れれば津波被害があった町に行きたいと思っていた。 平泉の駅に降り立ちローターリーでロケバスに乗り込んだ。 中尊寺の駐車場に着くと秋の気配と木々の香りが漂う参道をガイドさんや撮影スタッフと歩き始めると多くの観光客が行き交う中”サララちゃん”と声を掛けられた。そのうちに多くの人々が周りを囲み始めて撮影風景を見守っていた。 ガイドとのやり取りを撮影しながら1000年前のみちのくで起こった繁栄と誇りと悲しみの滅亡が木々から(こぼ)れる陽だまりの中に現れては消えていったように見えた。 20数年前の津波災害でも多くの昇華した魂が海から導国(みちびきのくに)のこの地へ(いざな)ったのかもしれないとサララは思った。 途中、遅い昼食を取るためにこぢんまりとした食堂へ皆で入りサララはそば定食を頼んであっと言う間に完食した。 お店を出ようとすると奥の方からお婆ちゃんが出て来ていきなりサララの手を掴んだ。スタッフが慌てて間に入ろうとするとサララが制して言った。 「お婆ちゃん、どうしたの? 何かお話でもあるの?」 顔を近づけて尋ねた。 「ああた変わらんねぇ~ちっとも。 ありゃ~いつだったか忘れたけんど。 あん時も、そば食ったろ。 うまいうまい言うて。」 「ばあちゃん、誰の話をしとるんか。 こん人はサララさん言うて有名なタレントさんだ。 ここへは初めて来なさったはずや。 すんませんなぁ、サララさん。 ちぃ~とボケとります。」 店の主人は何度も頭を下げた。 「うんにゃ、こん娘は以前いきなり店に入って来て、 ”わたしゃ、どこへ行けばええですか” 言うて大きな眼から涙ポロポロ流してなぁ~。 だからわしはそばを出して食わせたじゃろ。 なぁ~、ミイさん。」 「え?お婆ちゃん、ミイさんって誰ですか?」 サララが聞くと、 「ああたに決まっとる。」 ばあちゃんは即答した。
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