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女性教師の名は
昼田 花蓮(ひるだ かれん)と言った。
全然、似合ってないわと紹介されたときに、
まじまじと見つめたせいでリナが言いたいことは
伝わったのだろう。
「実家の近くに蓮で有名な観光地がありまして、
生まれたときに蓮の花が咲いていたのが名前の由来です」
今まで何度となく同じ説明をしてきたのだろう。
流暢に、だが、何の表情もなく名前の由来を説明してくれた。
夜明が鎖を少し引いて何か言いたそうな目をしていた。
「いいでしょ。わざとじゃないんだから」
小声で答えるリナ。
「引きこもりの生徒たちを部屋から出してほしいんです」
応接室から昼田の後に続いて
リナと首輪に鎖をつけられた青白い顔の青年、夜明が出て来る。
昼田の視線が首に鎖を繋がれている、背が高く、短い黒髪の夜明に行くが
リナは気づいても
知らんふりをして堂々としている。
「それだったら、
私よりもカウンセラーの方が適任じゃなくて?」
「試しました」
廊下の窓は、教会を思わせる上部がアーチになった細長い窓になっている。
窓からの柔らかい光を浴びながら昼田が首を振る。
「だからって、私たちを呼ぶ?」
リナが肩をすくめて見せる。
「専門外だわ」
「いいえ。あなたたちでなければ無理なんです」
昼田は理科実験室と入り口の上に書かれた名札貼られている
ドアの前で立ち止まると
「着きました」
とリナに向き直って言った。
「『着いた』って、ここ学校の中よ」
リナがさすがに驚きの声を上げる。
「そうですわ」
昼田がうつむきがちに重苦しい声で答える。
表情を見ていると
からかっているのでも
嘘をついているのでもなさそうだ。
しかも、依頼料も前金でしっかりともらっている。
冗談で言っているのでは無さそうだ。
「引きこもりって
自分の家の自分の部屋から出てこないことを
言わなかった?」
リナの質問に無表情でいた昼田だが、
諦めたようにため息を付いた。
「この学校はいわゆるセレブのご子息やご令嬢が通われる学校です」
確かに外観はヨーロッパの伝統のある教会のような建物だ。
内部もそれに見合った内装をしている。
生徒たちの持っている小物などをくるときに見たが
ブランド品でキーホルダー一つとっても
数万円するものだ。
「見てわかるわ?」
「だから、学校のスキャンダルになるようなことは
決してあってはならないのです」
リナは眉を寄せて昼田を見る。
「つまり、学校の恥を内密に処理してくれってことね」
昼田は無表情な顔のまま
「間違ってはいませんわ」
と言った。
「私たちここから出て行く気はないから」
「ここが一番、安全なのよ」
「誰が来ても、無駄なんだから」
理科実験室の中から
三人の女生徒たちの声が聞こえた。
「これって………
引きこもりじゃなくて…
立てこもりでしょ」
「そうとも言います」
「それしかないじゃない」
夜明もリナの後ろに立って昼田を見ている。
「こんなの私じゃなくて
警察を呼べばすぐに片付くんじゃない?」
「それはいけません」
昼田が即否定する。
「いけないも何も、
この子たちの両親は何て言ってるの?」
「親御さんたちからの要望です」
リナは呆れた表情をして見せる。
「つまり、理科室を占拠して立てこもっているのを、
引きこもっていることにして、
外に出してほしいってことね。
しかも、外部には漏れずに」
「理解が早くて助かります」
昼田の口の端が少しだけ上がった気がした。
「それでも、わからないわ。
私たちが呼ばれた理由が」
リナの仕事はゴースト退治。
問題のある生徒の更生などではない。
魔法の使い方次第で出すことは可能だろうが、
昼田はリナを魔女だとは知らない。
それなのにどうして呼ばれたのかと
いぶかしく思っていると、
昼田がリナの後ろに視線を移す。
「ちょうどいいタイミングで来てくれたわ」
リナと夜明の後ろから足音がして振り向く。
リナの目が信じられないものを見るように
何度も瞬きを繰り返す。
夜明も同じで、
じっと歩いてくるセーラー服姿の女子生徒を凝視している。
リナは一歩踏み出して声をかける。
「どうしたの? しーちゃん」
賀茂野 四角(かもの しかく)が
この学校の制服のセーラー服を着て、
頭の後ろに黒いリボンをつけ、
長い髪を垂らして歩いてきた。
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