1章

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1章

 大学に進学して早2年。自分のことを誰も知らない学校へと一人進学することに、心機一転の思いで友人作りに励んだ結果、なぜか一人で授業を受け、一人で昼食を済ませる毎日を送っている。その事実に<ruby>栄未来<rt>さかえみく</rt></ruby>自身、疑念が晴れない。  一から始めるつもりではいたが、まさかゼロからの出発であったことは想定外だったのだ。  履修する授業を組む際も、誰かと相談することなく、自分の都合に合わせた授業の入れ方をして、同じ学科の人さえ授業が被るものが少なくなってしまった。 「今日はなんか、次の4限行けない日だな」  3限の授業を終え、4限のコミュニケーションに重きを置く授業に辟易として、サボり癖がついてしまったのもぼっちだからこそだろう。  それでも明日提出する課題が終わっていないことに気づく。4限をサボる口実に、課題を性急に終わらせなければならないというミッションを課して、図書館へ向かった。    4限の授業を休むと、テストがないために出席点も多く、その分欠席で大きく減点されることになる。ゆえに、学校に来ているのに授業に出ない罪悪感は存外大きい。  それでも明日提出期限の課題も手つかずの状態であったことは本当であり、急いでもいた。    この時間で課題が終われば贖罪にでもなり得るだろう、そう信じて足取り重く館内へ入る。  まず、人の多さにげんなりする。よく考えてみれば、前期試験の2週間前だ。試験のない授業をとっている人は必然的にレポート提出するために、パソコンの使える部屋や資料を集める図書館が混雑するのは至極当然だった。  自習室もみっしり人がいる。普段は1席分は空けて席につく。しかし、今日はそうはいかない。  隣におそらく学生ではない男性が座っている。だが、そこしか机は空いてない。仕方ないが、バッグを置いて席に座る選択肢しかない。  幸い、同年代の男子学生でないことだけが唯一の救いだ。  明らかな年上の大人。それ以上のチラ見は視線が簡単にぶつかりそうな距離のため、とても危険。ぼっちをこの2年で極めた自覚があり、以前よりさらに人付き合いが難しい性格を形成してしまった。  それ以降は、課題に集中して取り組む。  一段落がついて、一息つこうと欠神をする。腕を伸ばして周りを見回して、目に飛び込んだワードが身近にあって思わず目の動きが止まる。  「家族心理学」。  未来の在籍する学科においてカリキュラム上取ることが推奨されている授業であり、今まさその課題に取り組んでいるところで、タイムリーなワードだった。    それをどんな大人の男性が読んでいるのか気になるのは自然の流れ。  視線がぶつからないことを祈りながら、徐々に本からそれを持つ指、手首、腕、肩、と遡っていく。   「あ」  男は未来が視線を上げるのを予測していたようで、はじめからこちらを窺っていた。
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