1章

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「僕、一応8個上なのに、そうやって結構ぞんざいな返事するくらいには、未来ちゃんの素を引き出せてきてるわ」 「・・・・・・」 「いいよ、僕にはそれくらいてきとうで」 「いいんですか」 「友人・・・・・・というわけにはいかないけど、親しくはなりたいからさ。それに僕の方が年上だし、おじさんに愚痴るだけ愚痴って発散させるだけでも、こっちは全然受け入れられる」 「大人の余裕、というやつですか」 「そうだな、それくらいないと、やっていけないよ、世の中。そう思うでしょ」 「それは、まぁ」 「だから、他の人には無理して合わせる必要ない。未来ちゃんは未来ちゃんの生きやすいように行動していい」  黒田は教員という立場を弁えながらも、未来の凝固した心のしこりを揉みほぐそうとしてくれているのだと感じた。なぜ、1生徒にここまでするのかは疑念ではある。  しかし、背中をさすってくれている体格のいい黒田を見ていると、最近まで感じていた苦手意識が払拭されていく。   「僕はそろそろ時間だから行くけど、未来ちゃんはいつ帰宅予定?」 「えっと、今やってる課題終わったら帰ろうかなってところです」 「・・・・・・それは後どのくらいで終わりそうなの」 「今3分の1が終わったところです」 「じゃあ、帰る頃にはすっかり暗くなってる可能性が高いな。僕が帰り送って上げるから、この図書館で待っててくれる?」 「え、結構です。私、一人で帰れます。というか、いつも一人で帰ってるので、全然大丈夫なんですよ」 「お、その判断、間違ってないよ。のこのこ男についていくような騙されやすい人じゃないってことが証明された」 「ぼっち大学生をなめるなってことです」  未来は軽く笑みが溢れる。 「もう1ヶ月くらい話してるのに、初めて笑ったところ見た気がする。新鮮ー」 「え、私普通に笑います」 「真剣な話ししかまともにしてこないと笑顔も見れないとか、損した気分になるわ」 「ハハ! なんですか、それ。そんなことより早く行かないと、チャイムなりますよ」 「そうだった。じゃあ僕はこれで。くれぐれも帰りは気をつけるように」  あっさり身を引いて図書館を去っていった黒田。口説きにかかっているわけではなさそう、という思考が巡ってきて、瞬間で律する。  恋愛感情などとうに忘れてしまった自分は、興味すら薄れて、他人すらも関心が沸かずモテる要素はどこにもないのに、勝手な憶測はイタい。  残りの課題に集中する。変な憶測を律するために。 「終わった――あ、もう19時回ってるじゃん」  気づけば、閉館前のBGMが流れている。身支度をして早々と館内から出た。既に薄暮は通り過ぎて、薄暗さが構内を哀愁漂う色に染め上げている。   「あ、未来ちゃん、まだいたの」 「あ、黒田先生」  
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