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走り出してからどのくらい経っただろうか。リサの脚は限界にきて、その場で座りこんでしまう。
心配そうに見上げる黒猫の頭を震える手で撫でる。撫でられた黒猫は嬉しがる様子もなく、今度はじっと前方を見る。なんだろうと黒猫と同じ方を見ると、目の前には輝く街が広がっていた。
文字や絵が描かれた様々なネオンの看板がついた大きな建物が立ち並び、その建物周辺には色とりどりのスーツやドレスなどのきれいな服を着た人たちであふれていた。
きれい……。
リサの心に浮かんだのは、ただそれだけだった。
あの人たちは何をしているんだろう。あそこは楽しいところなのかな。
力の抜けた脚を立たせ、光の下へ向かって一歩踏み出す。
「そこの赤いお嬢さん、こんな暗い夜に何をしているの?」
ふいに後ろから人の声が聞こえ、リサは振り返る。背後にはあの街にいる人と同じようにきれいな紫のドレスを着た女の人が立っていた。その顔はさっきのバケモノと違い、顔全体を覆う真っ白な仮面をしていた。仮面に表情はなく、何を考えているか分からない。
リサはさっきのことを思い出し、ギュッと強く黒猫を抱く。
「あら、その猫……」
女の人が黒猫に目を移すと、黒猫は腕の中で「ニャッ」と短く鳴く。そして腕からするりと抜け、女の人の足元へ向かう。その人は黒猫を抱き上げ、首周りを睨みつける。
「やっぱりルールーじゃない。また勝手に出てきたのね、もう」
女の人はルールーと呼ばれた黒猫を両手で抱き、後ろ頭を優しくなでる。
「ふふ、ありがとうお嬢さん。この子いつも勝手に家出するから困るのよね」
「あ、あの……」
この人は信用していいのだろうか。リサが迷っていると女の人は再びこちらを向く。
「そういえばあなた子どもよね? どうしてこんな時間に外にいるの? 夜は怖いバケモノたちの時間よ。早く帰らないと彼らに食べられちゃうわよ」
女の人は屈んでリサと目線を合わせる。
「えっと、あなたは?」
「私はカレン。あなたの味方よ。あなたはあの街に何か用があるの?」
「ううん。猫ちゃんを追いかけていたら真っ暗になってて……来た道を戻ろうとしたらバケモノが出たから怖くて走ってたらここにいて………私、家に帰りたい。お父さんとお母さんに会いたいよ……」
リサの目からは自然と涙がこぼれていた。カレンは怯えるリサの頭をそっとなでる。
「そっか、ここまでよく頑張ったわね。でももう大丈夫。あなたのお家はどこにあるの? お家の近くに何か目印になる物とかない?」
リサは涙を拭き、小さな声で答える。
「……ケーキ屋さん。シャトーっていうお店」
「そう、分かったわ。じゃあおいで。そこまで一緒に行きましょう」
カレンはルールーを地面に下ろすとリサへ手を伸ばす。
その手に戸惑うリサの足元にルールーは寄り添ってジーッと顔を見つめる。何かを訴えるようなその眼にリサは小さくうなずく。
リサは伸ばされた手を恐る恐る触れるとすぐに強く握った。震える小さなその手をカレンは大事そうに優しく握り返した。
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