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曲がり角がきて、バイバイと手を振るごとに隣を歩く友達が二人、一人と減っていく。
今日のご飯は何だろうな。そんなことを考えながら一人になったリサは歩く。
さっきまでの茜色の光は真っ赤に染まり、アパートが並ぶいつもの帰り道は不気味な雰囲気を漂わせていた。
「にぁー」
寂しそうな猫の鳴き声にリサは足を止める。声のした方を向くと琥珀色の瞳と目が合った。道端に座る猫は夜のように真っ黒で、その首元にはくたびれた赤い首輪がついていた。
飼い猫だろうか。こんな時間に外にいるなんて、このままじゃ夜になってバケモノに食べられてしまう。
「猫ちゃん、こっちにおいで。こんな時間に外にいたら危ないよ」
リサはそっと近づき黒猫の頭に手を伸ばす。しかし黒猫はリサの手を避け、裏路地へと消えていった。
「あ、待って!」
黒猫に続いてリサも路地裏に入る。ごうごうと鳴る室外機の間を、縮まらない距離を埋めようと夢中になって走る。
黒猫は時々リサの方を振り返るがその足を止めることはない。まるでリサをどこかへ誘うように奥へ奥へと走り続ける。
突然黒猫は足を止め、その場に座りこむ。リサは呼吸を乱しながら黒猫を抱き上げる。
「捕まえた。もう、ダメじゃない。はやく家に、帰らないと」
辺りを見わたすともうすっかり暗くなっていた。昼間と違い頼りになるのは、ぼんやりと浮かぶ月の光と薄暗い街灯の光だけだった。
どうしよう、もう夜だ。早く帰らないとバケモノに食べられちゃう。それに、ここどこなの……。
黒猫を抱く腕が強張る。リサの気持ちを察したのか、黒猫はリサの顔を見つめる。
そうだ、ずっとこの道を走って来たんだから、戻れば知ってる道に出られるはず。
リサは振り返り、光のない裏路地を見る。
なにかいる……?
小さいが、たしかに何かが歩く音がする。どうやらこちらへ向かってきているようだ。
息を呑み、リサは静かに踏み出そうとした足を止める。いや、正確には足が動かなかった。リサはなぜ足が固まったのか分からなかったが、その理由はすぐに理解することになった。
不気味に光る街灯が照らしたものは——そうだ、これがきっと大人たちが言うバケモノなのだろう。
それはたしかに人の形をしているのに、人間ではなかった。
それはぱっと見スーツを着た男の人のような姿をしているが、その口は頬の部分まで大きく裂け、その間から黄ばんだ歯がのぞかせ、目は横に長く細く伸びてまるで笑っているようだった。
ニタニタとした表情を浮かべたバケモノはゆっくりとこちらに近づき、腕を伸ばしてくる。
リサは悲鳴を上げ、知らない道を走りだす。涙で霞む視界には、さっきと同じくスーツを着た者やきれいなドレスをまとった人影が入り込むが、今のリサにはどれもバケモノに見えて信じられなかった。
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