Ⅵ 死者たちの輪舞

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「それとも、あなたはまたわたしを突き放すの? あの時と同じように、また身勝手にもわたし一人だけ冥府へ送り返えそうというの?」  さらにエヴリーデは突然豹変し、悲しげで恨めしそうな態度を顕わにすると、命を捨てることに二の足を踏むオルペを責め苛む。 「そ、そんなことは……」  彼女のために自らの命を捨てろというその頼みに、罪悪感に縛られるオルペは躊躇しながらも、逆らうことができずに言い淀んでしまう。 「愛しているのなら命を投げ出すくらい簡単なはずよ。それとも、あなたはもうわたしを愛していないの? あなたに冥界で置き去りにされ、それでもわたしはこうして会いに来た……こんなにも、わたしはあなたを愛しているというのに、あなたのわたしへの愛はもう失われてしまったというの?」  その弱みにつけ込むかのように、さらにエヴリーデは畳みかける。 「……わかった。確かに君の言う通りだ……もとはといえば、僕が禁を破って振り返ってしまったことが原因なんだし……その償いのためにも、僕は喜んでこの命を捧げるよ……」  その罪を贖うため、また、彼女への愛を貫くために、ついに彼は命を投げ出す覚悟を決めた。 「うれしいわ、オルペ! さあ、すぐにすむから少しの間、目を閉じていて。大丈夫。ぜんぜん怖くないわ」  すべてを受け入れることにしたオルペに彼女は顔色を明るくすると、例えるなら母親がこどもを諭すような、なんとも優しげな声でそう促す。 「ああ、わかった……」  オルペは身も心も目の前の恋人に委ね、ゆっくりとその瞳を閉じた……。 「オルペさん! 気をつけてください! 何が見えてもそれはすべて幻です!」  だがその時、深い森の闇の中から、そんなメデイアの声が木霊した。 「…! 幻? それじゃ、僕が今見ている君は……そうだ。僕は、一度きりの与えられた機会を棒に振った……なのに、君がこの現世へ来ることをあのハーデースが許すはずがない……君は、本物のエヴリーデじゃない……君は、いったい何者なんだ?」  メデイアの言葉に冷静さを取り戻したオルペは、その事実に思い至ると疑念を抱き始めた目の前の恋人…否、恋人のような姿をした者(・・・・・・・・・・・)に対して持っていた弓を構え、メデイアから借りたハシバミの矢を弦に番えて向ける。
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