Ⅵ 死者たちの輪舞

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「それは……そう! それは、禁を犯したあなたを再び冥府へ連れて来ることを条件に、ハーデース様が現世へ行くのを許してくれたのよ! だから、もしもその約束を破ったら、私は冥府でひどい仕打ちを受けることになるわ……それでも、あなたはいいっていうの?」  だが、彼女はそんな説明を口にすると、ひどく悲しげな表情を浮かべてそう訴えかける。 「もし君が本物のエヴリーデなら、もちろんそんなこととても受け入れられないけれど……でも、僕は君が信じられない!」  彼女の懸命な訴えにオルペも悲痛に顔を歪めるが、その顔をゆっくり横に振りながら、構えた弓をけして下ろそうとはしない。 「ひどい! あの女の言葉は信じて、わたしのことは信じられないっていうの? 悲しいわ、オルペ! やっぱりあなたの愛はもう失われてしまったのね……いいわ。わたしはまたあなたに見捨てられて、約束を破った罪で地獄の苦しみを与えられるのよ……」 「そ、そんなことはない! 君への愛は今も変わらない! それに、もう二度と君を見捨てたりなんかしない!」  その美しい瞳に大粒の涙をいっぱいに溜め、嗚咽して嘆き悲しむ恋人の姿にオルペはひどく動揺する。 「だったら、そんな物騒なもの早く下ろして? わたしへの愛に偽りがないのなら、そのことをちゃんと証明してみせてよ! もう二度とわたしを突き放したりしないというのなら、わたしを信じて、すべてを任せて瞼を閉じて!」 「………………わかった……君を信じる」  〝二度と突き放したりしない〟……傷ついた彼の心を深く抉るその言葉に、最早、抗う気力も失ったオルペは、ついに弓を下ろして再び静かに瞳を閉じた。 「オルペさん! 彼女を信じてください! あなたの恋人を! あなたが愛したエヴリーデさんを!」  そんな時、再びメデイアの声が夜の森に響き渡る。  ……エヴリーデを信じる? あの女騎士は、なぜ、そんなことをわざわざ言うのだろう?  瞳を閉じ、すべてを彼女に委ねながら、オルペはふとそんな疑問に捉われる。  ……ああ。信じているとも……だからこうして僕は命を捨て、彼女とともに冥府で暮らすことに決めたんだ……。 でも、信じるって本当にそういうことなんだろうか?  ……僕は、僕が愛したエヴリーデを信じる……そうだ。あのエヴリーデが僕に死んでくれなんて言うだろうか?  ……いや、僕の愛した心優しいあのエヴリーデが、そんなこと言うはずがない!
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