Ⅶ 贖罪のバラッド

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「で、でも、それは司祭の見せた幻で…」 「わかっています! あれが幻であり、本物のエヴリーデでなかったことはわかっているんです! でも、たとえ幻影の見せたエヴリーデであっても、僕は彼女を受け入れ、この命を捧げてやるべきだったんじゃないかと思わずにはいられないんです」  自分を責め苛む彼を弁明しようとメデイアは口を挟むが、オルペはそれを遮って、その正しい答えを自問自答するかのように複雑な今の心境を吐露してみせた。  わたしなら、いったいどうしただろうか?  そんなオルペの姿を傍らで見つめながら、メデイアはまた、それを自分の場合に置き換えて考えてみる……。  もしもハーソンの幻が現れ、自らの命を差し出せと言われたら……やっぱり自分は、それでも幻の彼が言う通りに命を捧げてしまうように思う。  それが果たして本当に〝恋〟や〝愛〟と呼ばれるものなのかわからないし、それが正しい選択なのかどうかもわからない……だが、気づけばそれほどまでに、メデイアの中でハーソンの存在は絶対的なものになっていたのである。 「他人が口出しするようなことではないが、もしも本物の彼女の霊がこの話を知ったとしたら、きっとそれでよかったと言うのではないかな?」  命をつけ狙っていた邪教の司祭が死んでもなお、苦しみの迷路から抜け出せないでいるオルペを見かね、思い切ってハーソンが慰めの言葉をかける。 「ええ。僕もそう思います。あの優しいエヴリーデだったら、きっとそう言ってくれるだろうと……でも、それでも僕は彼女を突き放してしまった罪滅ぼしがしたいんです。たった一度の機会を台無しにして、彼女を連れ戻すことのできなかった罪滅ぼしを……」  だが、無用の説教だと言わんばかりに、ハーソンのその意見を肯定しつつもオルペはそれに反論する。 「いや、もう無駄に命を投げ出そうなどとは思いません。メデイアさんと言いましたか? そちらの女騎士さんにも言われました。もう彼女を冥府から連れ戻すことはできないけれど、これから残りの人生、その答えをずっと考えながら、彼女の()とともに歩んで行こうと思うんです。いつか、生涯を全うし、冥府で再び彼女と出会うその時のために」  続けてオルペは詩を朗じるかのようにそう告げると、薄っすらと微笑みを浮かべた顔をメデイアの方へと向けた。
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