Ⅶ 贖罪のバラッド

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「よし! そうと決まれば、オルペ君の入団祝いに〝ホラ吹き男亭〟で飲み直そう! ま、その前に死んだ司祭やそこらで寝ているじゃじゃ馬(・・・・・)達のことをチャーメルンの役人に報告せねばならんがな……やむをえん。ひとっ走り、私が呼びに行ってきます」 「うむ。では任せた。娘達もこのまま外に寝かせておくのはなんだ。その間に店の客達にも協力してもらって、店内へ運んでおこう」  話がまとまると、一仕事終えた後ということもあってそういう向きとなり、一同は森を出て店の前へと戻って来る。 「では、行ってまいります。まだ役人の取り調べがありますから、もし時間が余っても飲み過ぎずに待っていてくださいよ? ……ハァっ!」  念のため、一応、そんな忠告を言い残すと、アウグストは繋いでおいた馬に乗って町の中心部の方へと駆けてゆく。 「では、我々は娘達の片づけだ。この店の店主にもいろいろと面倒をかけるな……」  アウグストを見送り、ハーソンもメデイアとオルペにそう告げると、踵を返して店のドアを再び潜ろうとする。  その時、〝笛吹き男〟を少し弄った店の絵看板をなにげに見上げたハーソンは、不意にその〝法螺貝を吹く男〟のシルエットと、あの司祭の角笛を吹いている姿がなぜか脳裏で重なった。 「……? どうかなされたのですか?」  その微妙なハーソンの心の動きにも、常日頃から彼をよく見ているメデイアは逃さずに気づき、訝しげに小首を傾げながら不思議そうに尋ねる。 「幻覚を見せる煙で理性を奪い、暗示をかけて笛の音で操る……もしかしたら、〝笛吹き男〟もそうやってこども達を連れ去ったのかもしれんな……あの話の真相、君はどう思うメデイア?」  その奇妙な伝説とどこか似ている今回の一件に、ハーソンはそんなことをなんとなく思うと、一目置いている腹心の彼女に愉しげな笑みを浮かべて意見を求めた。 (Orpheus der Barde ~冥奏のオルフェウス~ 了)
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