16人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほおう。それは助かる。さっそく魔術担当としての務めを果たしているな」
「……え? い、いえ、そんな……わたしの働きなど、まだまだでして……」
薄っすらと微笑みを湛えて礼を言うハーソンに、図らずも褒められたメデイアはまたしても頬を赤らめ、もじもじと体をくねらせてしまう。
命を救われたあの日以来、ハーソンの役に立つことが何よりも彼女の悦びと化している……。
最初は助けてくれた上に居場所をくれた彼に恩返しがしたいという、ただそれだけの純粋な気持であったのだが、今は少し違うように思う……褒められたい、認められたいという下心ももちろんなくはないが、それよりも何よりも、たとえ見返りがなくとも彼に奉仕をすること自体に言い様のない幸福感を感じるのである。
それはまるで、以前自分も魔女をやめて志そうとした、修道女として神に仕える姿にもどこか似ているような……。
……忠誠心……いえ、もしかしてこれが、プロフェシア教の説く〝無償の愛〟というものなの? もしかして、わたしはハーソン様のことを愛して……。
そう考えると、顔が赤くなるどころか全身の血がカーっと煮え立つように熱を帯びて、今にもその恥ずかしさから発狂してしまいそうになる。
「――メデイア? おい、メデイア、どうかしたのか? 行くぞ?」
「…………え?」
いつからそうしていたのだろう? 気がつけば、ハーソン達はすでに店の扉を潜ろうとしており、ぼおっと突っ立っていたメデイアの名をアウグストが小首を傾げて呼んでいる。
「あ、す、すみません! なんでもありません! なんでも!」
なんだろう? 今日はいつも以上にハーソンのことを意識してしまい、なんだか調子が狂ってしまう……メデイアは慌てて返事を口にするとその場を取り繕いながら、小走りに二人の後を追った。
「なかなか良い店だな……」
店に入ると、こんな辺鄙な場所にあるとは思えないくらい、古い建物ではあるが小ざっぱりとしていて、都会の高級店を髣髴とさせるような良い雰囲気であった。
まだ日が高いせいか、お客も三人ほどしかおらず、穏やかな静寂に支配された店内には、厨房の竈にかけられたスープの、食欲をそそるいい匂いが漂っている。
最初のコメントを投稿しよう!