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ああ、雨音だ。
階段を上っていくうち、聞こえてきた音と空気の冷たさが肌に伝っていた。
しかも風も吹いているらしく、ごうごうとした音も耳に当たる。現実でも台風とかでそういう天気になることはよくあるけれど、この状況で外に出るのは危険が過ぎるように思える。
「開け放しているのは内側から閉じられなかったからだけど、寧ろそれでよかったような気がしてきた」
「それで良いんだと思うよ。ここの持ち主はどんな考え方してるのかは知らないけれど」
この地下空間の所有者に関しては、僕は考える必要もないことだろうけれど、しかしどうしてかここに居ると落ち着かない。そんな風に感じるということ自体が、僕が余所者だという証な気もする。結局そんなものでしかなく、幻想に関して僕が思案することなどありはしないのだ。
「ねえ、ジン。きみはどうして此処に来たの? 所有者でないのにここに来ることがあまり考えられないんだけど」
「…………ん? 別に理由があってってことじゃないんだよ。さっきまでコンビニに居たらいつの間にかここに居ただけの話だ」
「こんびに? 何それ」
「え、知らないのか……」
商店だよと答えておく。いよいよ訳わからないことになり始めている。この世界、どういう時代設定なんだ?
この地下空間にはこれ以上見るものもないし、外に出て探索したかったのだけれど、しかし雨で視界が利かないのが問題だろう。かつての大戦争でも降り続く雨で敵の襲撃に対応できなかったことが何度かあったから、迂闊に出歩くのは危険すぎると知っていた。
「いいや、行こう。どうせいつかは打って出なきゃならないんだ」
立ち上がって空を見遣る。吹き付ける風雨に対しては正直思い出したくもない記憶が内包されているけれど、それを今考えていたって何も始まりはしないのだ。
不思議そうに見上げるニアータを見ることもなく、僕は地上の雨に身を躍らせた。
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