三節「白い風」

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「鯖尾三水(さばお・みつみ)。呪術師」  彼女はふて腐れたように名告った。往生際の悪い奴である。  何でこんな所で暴れていたのか問うてみると、別に理由はないと返されて、何かを隠しているようにしか見えなかった。 「うー、本当に言われて来ただけだもん。そこにいる化け物を倒せって言われて」 「化け物?」 「わたしじゃないよ?」とすかさずニアータが否定する。「普通に生きてるフリしてるし」 「それはそれでよく解らないが……まあいいや。三水は誰に言われたんだ、それを」 「…………式さん」  その名前は、あまり聞きたくないものだったけれど。 「此処に来ているのか、そいつ」  三水は首を振った。 「ここには居ない。必要ないから」 「ふうん。ならいいか」  礼吐くんが怪訝そうにしているが、そこには触れず。ルルに縛り付けられたまま、ニアータに向けて視線を送った。 「行こうか、ルルくん」  歩き出すと、三水は焦ったように首を僕に向ける。 「え? どこに行くの!」 「どこって、警察署だろう、この場合」 「にゃー! やーだー!」 「五月蝿いなあ。両腕両脚折られるのとどっちが良いの?」 「………………………………」  嫌すぎる二択だった。  とにかく、ここで何かの糸を手繰れそうだと考えるのは不自然ではないだろう。少なくとも僕には、ミステリーのような真似はできない。探偵であるより警察に似た考え方なのだと自分では思っていた。 「鯖尾さん? きみ、所属はどこなんだい」  礼吐くんが問うていた。 「それは言えない。あの人の言いつけだから」 「じゃあ、歳は? それさえも言いたくないとは言わないよな」  それは僕も気になっていた。彼女は見た目の年齢がニアータと大して変わりないように見える。どちらも妹よりも幼く見えるという事実が共通しているのだ。 「十四。聞いてどうするって言うの」 「別に。確認したかっただけだよ。というか、そこまで若いのか。俺たちとそんなに変わらないのは予想外だな」  だが、呪術師というのは見過ごせない要素でしかなかったが。  呪術師の集まる団体はいくつかあるけれど、それを言えないのなら有名なものではないということだろう。特に最大団体の皇輝韻の所属なら、寧ろそれを公表していく人間が多いと聞くから、そことはまるで反対だ。 「呪術師ね。正直わたしは相手にしたくはなかったタイプの人間だけど」  ニアータは憂鬱そうに漏らした。霊力に対する耐性を持たない真祖には相性は悪いけれど、それも攻撃が当たればの話でしかなく。  どうしてこの種族が世界に居なくなったのかがよく解らない。  それを問うても意味はないだろうし、ニアータに訊くのは気が引けた。 「まあいいか。こいつが今、ここで何をしているのかを訊き出す必要があるだろうな」  僕が言った言葉に、三水が怯えたように身をすくませる。縛られた状態でそんなことをしたとて、身じろぎ程度にしかならないけれど。  まさか拷問とかされると思っているのだろうか? 僕はそこまで人間を辞めてはいないんだけれど。しかし出遭ったばかりの人間の考えが読めたなら、それはそれで化け物ではあるが。 「それをやったのは私だけどね」 「化け物が。流石にあれはビビったぞ」  糸識さんはそういう人間だと理解する前なら驚くしかないというより、気味が悪いと感じてしまうだろう。でも、そこには悪意を感じていないので、今はもう気にしたりはしない。
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