三節「白い風」

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「仁君、すげえ顔してんだけど」  礼吐くんはあっさりと見抜いてくる。戻ってきたところにそれを言われるとキツいものがあるのだけれど。 「気にしないでいいよ。別の問題だから」  そうかい? と礼吐くんは気にした風もなく視線を外した。四畳半の祠には無数のディスプレイが浮かんでいて、その中にいくつか術師のものと思われる情報が表示されていた。 「どういう奴らなんだろうな」 「呪術師が二人、異能者が一人。どうも所属がはっきりしていないんだが、『あの宗教』の絡みってわけでもなさそうだからな……」  あの宗教団体は二年前の「大戦争」で壊滅している。今、誰かに牙を剥くようなことはないだろう。というか、壊滅どころか消滅しているのだから復活のしようがないのだ。  遠田海人というあの異能者が滅ぼした一つの世界、一つのシステム。  それでありながら、誰一人殺してはいないという、不可思議なやり口。  あの人は、すべてが解らないことだった。  だがそれでも、世界全体が大ダメージを受けていたことは否定できない事実で。二年経った今でも、復興の最中なのだ。 「式が関わっているってのは大体わかっているけれど、あいつは誰とも群れないはずだ。だが今、その関係で動いている人間がいる」  ニアの後ろで眠っている三水にしても、そういう奴なのだ。 「……こいつは先兵というか、鉄砲玉だよなあ……」  攪乱そのものを目的にした使い捨ての兵士。式は確かに、そういう人の使い方をする奴だと記憶している。 「ふうん、どうにも解らないな。式にはそういう人望があるわけでもないのに……」  親が言いたい放題な気がするのはどうしてだろう。僕にしても彼に対していい感情は持ってはいないけれど、それでも悪し様に言うのは避けているのに。 「とにかく、その術師を斃せばいいんでしょ? 簡単なように思えるけれど」 「言うねえ。悪いがそう簡単にはいかないだろうよ。反応で確認できる限り、異能者の方はかなり高レベルだ。少なくとも、仁のレベルで相対できるとは思えないくらいだ」  わあ、正直。 「ニアータのレベルであれば対抗はできる。真祖のレベルであれば難しくはないだろう。それでもその近くには呪術師が居るからな」 「じゃあ、その呪術師を僕たちで抑えればいいんじゃないのかな」  数的有利で計れる相手ではないのだろうけど。 「……まあ、それでいいんだけどさ」 地下都市と地上の街はリンクしているというか重複しているというか、とにかく連動しているので、行き来自体は簡単だった。 地上の役場から出ていけば、そこには白く風が吹き荒れている。結界の中心に近い場所だからなのか、霊力の奔流が全身にびりびりと痺れに似た感覚を皮膚に与える。 「寒いね。日光も届かないし、ここまでくると圧力が凄いよ」  涼が身を軽く震わせながら呟いた。  仕方ないさと応じて、風上の方向に視線を向ける。  白く視界が閉ざされているのは地吹雪に似た何かだろうかと錯覚してしまう。 「行こうか」  進み始めると、他の皆も動き出す。ただ、今回は母がついてこなかった。役場に残って連絡役になると言い、そのまま祠のある部屋で通信と解析を続けていた。  出発の際に渡されたイヤホンマイクを耳に着けて、常時通信状態にしておいた。
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