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「ジン―――」
は、と意識が戻る。瞼を開くと、その場所には二人の人間が立ち合っている。僕の名を呼んだのは、左側に立つ女性だった。
その声に、心臓がずきりと痛みを発する。泣きそうになるようなこの揺らぎは一体何だ。
「ねえ、ジン。どうして?」
何がだよ。そう応えようとして、しかし喉は震えない。それだけで、その問いが自分に向けられたものでないことが容易に知れてしまった。
「それを問おうと思うことが既に罪だと、ギリーなら言うだろうけれどな。俺は、そう問われることは嫌いじゃあない。だが―――」
反対側でそんな風に応えたのは、怜悧な視線を交わし続ける二人の、男の方だった。二人に共通する蒼い眼を光らせて、僕には理解しえない言葉を交わす。その言語がどうして日本語になって聞こえているのかは、原理がよく解らないけれど。
「レイリア。聡明なお前なら解るだろう。人間には、どうしても二者択一を迫られる瞬間が、人生において必ず出てくる。それがあの瞬間だったというだけのことさ」
何を言っている? この空間を僕は何故見ている?
―――意味が解らないな。
「―――意味分かんないよ」
ふて腐れたような女性の返答は、どこか涼の機嫌が悪い時の口調に似ていた。関係があるとは思えないけれど、どこかで通じているような仄かな予感がある。
しゃり、と互いに剣を抜いた。男性の方は双剣、女性の方はレイピア。
僕にはこれから何が起こるのか、ある程度予測できていた。できていても、それを止める手段などあるわけもなく、ただ見ているだけなのだけれど。
ぐ、と二人が同時に脚を踏み切ろうとした瞬間。
その広い草原の向こうから、白い光が視界を埋めていく。
「ぐあっ…………!」
視覚を麻痺させる光の量に、動きさえ封じられる。
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