白の女王様

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白の女王様

夏の日差しが鼻につんざく。 僕が寝そべる原っぱは風の仰ぎを 受けて勇ましくなびいている。 一方で僕のシャツは まるでこのまま、 細い腕からスルッと逃げてしまいそうな。 そんな危うさがあった。 誰かの忘れ物かもしれない 金具でふうされた体格の良い寸胴のビンの中の太陽は、僕をあまりにも大きく写していた。 実際はそんなことないのに。 自信のない自身の腰を少し伸ばして 立つ。ミシンで縫い付けた雲に向かっていく 一匹の子クモのパラグライダーを羨ましくなった。 僕もあんな風に… あんなように風に乗って飛んでいけたら。 今から越えようとする高い壁を打開すべく。 立ち上がった。 だけど、たちが悪いことに、 その壁は振り向くと後ろにいた。 マッシュルームの色をした帽子をかぶった 白の女王気取りのその壁がいたのだ。 僕はポケットにしまっていたナイフを。 気取った女王様は誘うように にやりと笑った。 やってみなさいよ。 そう言っているようにみえる。 ナイフを強く握る。 彼女は自分の帽子で、心臓を隠すように 胸の位置に置いた。 両手で持つその帽子は身がわる 事を嫌がっているようだ。 大げさにかぜに揺れている。 ここで走馬灯のように過ぎる記憶を 遅くして語る事にしよう。 どうしてぼくが終わらせて あげないといけないのかを。
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