梅の残り香

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 口づけは梅の香りがした。  私の寝屋に足を踏み入れたヤマトタケルは、ものも言わず、いきなり唇を押し当てた。香りの秘密が分かった。タケルは口に含んでいた梅の花を、私の口中に舌で押し込んできたのだ。  これがヤマトの英雄のはからいというものか。私は花びらの残骸を軽く咀嚼し、静かにのみ込んだ。  途端にタケルは私に覆いかぶさった。睦言など一切なかった。それはそうであろう。私は、ヤマトの侵略を恐れた族長の父によって差し出されたいけにえなのだから。この契りは恭順の証なのだ。  私は生娘だった。私を犯したヤマトの英雄は、義務を果たしたかのように寝所の隅に座っている。雲が切れ、月明かりがその顔貌を照らした。  私は息をのんだ。美しい。  今私の前で軽く視線を逸らしている男は、想像していたような大男ではなかった。たくましくはあるが、しなやかであり、そして、ほどけた結いの髪に縁どられた面は端正で気品がある。血を好む野卑な侵略者のイメージとはかけ離れていた。
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