梅の残り香

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 タケルは無防備に寝入っている。いや、そう見せかけているだけに違いない。私のような女に根首をかかれるとは思ってもいないだろうが、いついかなるところから敵が乱入してくるやもしれないのだ。  私は床をするりと抜けて、傍らに大事そうに置かれていた草薙の太刀に近づいた。  タケルは動かない。寝息さえ聞こえている。  太刀はずっしりとした重みを感じさせ、そこに静かに横たわっていた。  鞘には見事な細工が施されているが、その中身は幾たびも鮮血を吸ってきたものなのだ。  私には、タケルとともにこの太刀も呼吸しているかのように思われた。  私は勇を鼓して、太刀に手を伸ばした。  
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