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再びの抱擁。私は我を忘れそうになった。けれど、耐えた。タケルは私を激しく抱きながらもその心は何か別のものに占められていた。
海神の犠牲となって果てたというタケルの最愛の妻、オトタチバナヒメのことを思っているのかもしれない。
私には、会ったこともないそのヒメのことなど想像することもできない。
どのくらいの時間が過ぎただろう。
タケルは私の長い黒髪を丁寧に撫でていた。
私は口を半開きにしてすぼめ、うっとりとした眼差しで彼の顔を盗み見た。
「ミヤズ、思った通りお前は花のようだ」
タケルは初めて口をきいた。
「花のようでない乙女が果たしてありましょうか」
私は答えた。
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