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タケルは目を細めた。月明かりににじむような笑みだ。
それからふいと真顔になり、けれど軽い口調で尋ねてきた。
「そちは、このヤマトタケルが恐ろしくないと見えるな。それはなぜか」
私は虚をつかれた心地がした。
恐ろしい? 確かにその気持ちがないと言えば嘘になるが、それさえも激しい抱擁のうちに忘れ去ってしまっていた。
私がこたえあぐねていると、タケルは続けた。
「私は化け物だ。ヤマトの国のためには手段を択ばず、恭順しない部族を、民を、王たちを殺戮してきた。この手は幾度鮮血に濡れたことか、猛火で人を焼き殺したこともある。皆が私を言う、化け物と」
「殺される側の人間に、殺戮者がそのように見えるのは当然でありましょう。けれど、タケルさまはわたくしには優しいではありませぬか」
私は涼しい声で答えた。
「そうか、優しいか。しかしそなたの父である族長は私を心底恐れている。それに」
タケルは少し言葉を切って、また続けた。
「私を初めて『化け物』とののしったのは、私の父であるヤマトの王だ」
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