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その意外な言葉に私は目を瞠った。
父、ヤマトの大君の忠実な僕として、南方、西方を征服し、今は東征の帰途にあるのだと思っていたから。
ヤマトの大君は、ヤマトタケルを倦んでいるのか。
「ヤマトにいるとき、私は兄を惨殺した。それを見た父は私を恐れて化け物と呼んだ。それが始まりだ」
静かな声音でタケルは語り始める。
「確かに私の中には父さえも恐れさせる荒々しい、いや禍々しい血が流れているのかもしれない。少なくとも父はそう信じている。だが、私は許せなかったのだ。兄が、父王の女と通じたことを。そして、それは父王に伝えてはならぬことだった。私は父の、ヤマトの誇りのために、兄を謀り殺したのだ。そうしか私にはできなかったのだ」
私はタケルの手の甲に、自分の手のひらをそっと乗せた。
ヤマトの英雄の予想外の弱音に、私の心はつかまれたのだ。
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