梅の残り香

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 「私にとっては、尊敬する父王を守り通すことが使命なのだ。だから、クマソの陽気な南国の王を、女装して近づき、一刀両断にした。宴の明るい松明がめらめらと燃えていた。そしてその帰りには、ヤマトに並び立つ古からの強国、イズモに立ち寄り、イズモタケルを卑怯なやり方で殺した」  私はいつしか、タケルの話に引き込まれていた。  「イズモタケルは私の来訪を知っていた。そして、ヤマトの王からの使者が事前にあったことさえ教えてくれた。なぜそんなことを父はしたのか。あわよくば、イズモが私を屠り去ってくれることを期待したのだ」  タケルは苦い顔をした。  「分かるか。父は敵国と通じてまで、私を亡き者にしようとしたということだ」  「まさかそんなことが」  タケルは、遠くを見るような眼をして、語り続けた。  「私は不思議とその話を聞いても驚かなかった。怜悧なイズモタケルは私に、ヤマトを捨て、イズモにとどまるよう勧めた。イズモの民は、ヤマトの奴隷ではないと。だから私を弑することはせぬと。イズモタケルは私の唯一の友であった」  しかし、ヤマトタケルはイズモタケルを殺したのではなかったか。私はそれを口にするか否か迷った。  「私はイズモタケルと寝食を共にし、様々なことを語り合った。あの男の落ち着いた物腰、控えめな態度はヤマトの民にはない気品を感じさせた。それで私はどうしたか」  私は息をのむ。  「イズモタケルをも弑した。あらかじめ剣をすりかえたうえで手合わせを申し出、そのままずたずたに切り殺した。ヤマトの王に敵対するものを生かしておくことはできなかったのだ」  
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