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私はそこで一息息をついた。
そして話題を転じた。
「お后のオトタチバナヒメは東征の中でお亡くなりになられたとか」
タケルは私が妬いているとでも勘違いしたのだろうか。腕を伸ばして私の髪をかき上げ、首筋に触れた。
私はそれを振り払う。
「海の神のお怒りを鎮めるために、自ら人柱になられたとか」
タケルは表情をなくした。私はそれを見てとった。
「なぜ、お止めしなかったのです?」
残酷な問いを口にした、敢えて。
ヤマトの英雄はさすがにそれで取り乱すことはなかったが、中途半端に伸ばした指先が小刻みに震えているのが見てとれた。
私は続ける。
「タケルさまともあろうものが、本当に止める気なら、できないことはありますまい」
タケルは黙っていた。
言うまでもなく、タケルにとってこの東征は何よりも彼女、オトタチバナヒメを喪った痛く辛い行程であったことを百も承知で、私はタケルに痛打を浴びせた。
あどけなさの残る声音を十分意識したうえで。
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