梅の残り香

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 タケルの眉筋に、苦渋の表情が浮かんでいるのが見てとれた。  それを見て、初めて私の中に嫉妬の感情が芽生えた。これほどタケルの心をつかんで離さないオトタチバナヒメとは、いったいいかなる女人だったのか。  けれど私は、その生まれて初めての感情を押し殺した。  「タケルさま、抱いてください。ミヤズをもっと愛してくださいませ」  タケルはその言葉にしたがった。おそらくタケルの中には、もはやオトタチバナヒメしかいない。それでもいい。私には私の生き方がある。  むんとするような梅の香が急に匂ってきた。  寝屋の外は月あかりに照らされて、紅梅が咲き誇っているのだ。
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