告別式会場

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 お焼香を終えた熊子の元にジョニーの母親とおもしきご婦人が近付いてきた。その手には湿ったハンケチが握られている。  「熊子さん、宜しければ息子の顔を拝んでは頂けないでしょうか」  ご婦人は沈痛な面持ちだったが熊子への気遣いからかうっすらと微笑んだ。これに合わせるようにあいづちをうった熊子もうっすらと微笑んだ。  二人はジョニーが眠る棺の前に立った。この状況だけだったら二人が嫁と姑に見えたとしても不思議ではないだろう。そしてご婦人は棺の窓をゆっくりと開けた。  ご婦人は喉奥から込み上げて来る感情を下顎で抑え込むと熊子にジョニーの顔を拝むように促した。熊子は一歩足を進めて失礼のないように顔を覗かせた。  熊子は恥じた。ジョニーはどうせ死んだ振り(たぬき寝入り)をしている、そう思っていたからだ。だが棺に眠るジョニーは蒼白くとても死んだ振りをしているようには思えない。それに微笑む表情がこの殻から魂が抜けて極楽浄土へ向かったことを物語っていた。
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