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「カメラがない…」
家に帰り、机の引き出しを開くと、そこにあるはずのカメラはなかった。部屋中探した。親にも聞いた。だけど、誰も知らない。どこにもない。カメラ本体だけでなく、付属品も全て無くなっていた。
撮れないはずのスマホで撮れてしまった写真。
あの瞬間を写真に収めたいと思った時、カメラの返却が決まったようだ。
一昨日俺が撮った写真は学校のカメラ。じゃあ家の周辺で撮った他の写真はどこに行ったのかと探すと、古いデジカメの中にあった。
デジカメの写真を確認する。そのお粗末な写りに俺は頭を抱えた。ピンボケ写真に暗い写真に白飛び写真。あのカメラで綺麗に撮れていた写真は、このカメラで撮った場合の状態に変化していた。
それらを全て削除すると、俺は倒れるようにベッドに寝転んだ。
「カメラ欲しいなぁ…あの一眼レフカメラ、また貸して欲しいなぁ…」
またあの少年に会えるかもしれない。また貸してもらえるかもしれない。
俺が目を閉じて祈るような気持ちで呟き続けていると、スマホがメッセージの受信を告げた。相手は中野明梨だった。
『先輩に聞いたら、部員の半数以上の参加があれば部活動として認めてもらえて、学校のカメラを貸してもらえるって。
今度、動物園に遠征撮影に行きたいって話してたんだけど、鈴木君も行かない?』
カメラを借りたいがためへの人数合わせか。そもそも、俺は動物に興味は無い。あの一眼レフカメラがあれば、迷うことなく断っていた。
そしてしばらく考えた後、俺はこう返信した。
『連絡ありがとう。カメラ貸してもらえるなら行く』
もうあの少年はカメラを貸してくれないだろう。いつどこにシャッターチャンスがあるか分からないと分かった今、あのカメラにこだわっていられない。
「許可もらえたら、応募しようかな…」
スマホから応募出来るフォトコンも沢山ある。この写真なら、いい線行くかも知れない。
スマホの中で輝くように笑う中野の笑顔を見ながら、俺はそう考えた。
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