カメラ

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 写真を撮るのが好きな母。  カメラ目線でポーズを取った写真より、遊んでいる時の自然な姿が好きだと言って、小さい頃の写真はカメラ目線のものは少なかった。小学生になると、母は自分のカメラを俺に貸してくれた。  俺は両親の働く姿やくつろぐ姿、笑った顔にあくびをする顔、そんな日常的な姿を好んで撮った。沢山撮った。だけどせっかく撮った写真は、恥ずかしいからと消されてほとんど残っていない。それから、だんだんと景色を撮るようになった。  写真を撮るのが大好きで、写真を撮るのが楽しくて、構図だとか発色だとかそんなこと何にも考えなくて、この瞬間を切り取って残しておきたい。ただそう思っていたあの頃。  俺は今、無性に窓際ではしゃぐ女子3人を撮りたくなった。だけど俺のカメラはここにない。写真を撮れない。だけど、今この瞬間を撮りたくて堪らない。  俺はポケットからスマホを取り出すと、カメラを起動させた。  カシャ  電子的なシャッター音がした。  ここからだと少し遠い。指でズームさせてさらにカシャ。もう少し大きく、中野を中心に撮る。  雲間から差す光は、楽しそうに笑う3人を祝福するかのように照らしている。  俺が夢中になって3人を撮っていると、1人が突然こっちを向いて真顔になった。 「ちょっと!何撮ってんのよ!」  中野に言ったのとは全く違う、強い口調。 「ご…ごめん……あの…」  女子に睨まれ、しどろもどろになりながらも何とか声を出す。 「えっと……き…綺麗だなーと、思って…」 「えっ?」  女子から険しさが少し消えた。思わずとはいえやってしまった盗撮を許してもらわなければと、一所懸命言葉を続ける。 「えっと…光の中で笑ってる3人が、綺麗だったから思わず…」 「ほんと?見せて見せて!」  明るい声を上げ、中野が俺の手元のスマホを覗き込む。  俺は慌ててさっき撮った写真を表示する。 「すごーい!綺麗に撮れてる」  中野が指で繰りながら写真を見る。残りの2人も中野の横から写真を見ている。 「ねえ、この写真送ってよ!」  怒っていた女子が嬉しそうに言った。 「あたしにも送って!」 「じゃあ、3人に送るよ」  入部当初に連絡先は交換した。ただ、連絡を取り合ったことはないから、これが初めてになる。  3人は俺が送った写真を自分のスマホで眺めてご満悦だ。盗撮を許されてほっとする。 「やっぱり鈴木くんは上手だね!」  中野が満面の笑顔で俺を見る。顔が熱くなったのが自分でも分かった。 「一昨日も、一眼レフカメラ初めてって言ってたのにすごく上手に撮ってたし、スマホでもこんなに綺麗に撮るんだ」  中野の言葉に違和感を感じた。 「明梨と同じカメラ使ってたとは思えなかったもんね」  同じカメラ? 「いつもは小さいデジカメで撮ってるって言ってたよね?私も安くてもデジカメ買った方が良いかな?」  中野の言葉に俺は困惑した。 「いや、ちょっと待って。確かに小さいデジカメしか持ってないけど、今は最新の一眼レフカメラを借りてるって…」 「そうなの!?最新って、どんなの?」  ざわりと胸が騒ぐ。 「どんなって、一昨日持って行っただろ?」 「えっ?一昨日は私と一緒で、学校のカメラ借りたよね?」 「何言って……!!」  そこで俺は思い出した。カメラを借りる条件。 「そのカメラ以外で、写真を撮れなくなります。カメラだけでなく、携帯電話やスマートフォン、他のあらゆる媒体で写真が撮れなくなります」  俺はさっきスマホで撮影した。出来なかったはずの他の媒体での写真撮影が出来てしまった。
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