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3話
涙でかすんだ夜の景色の中を、輪郭のぼやけた車のヘッドライトが流れていく。春だというのに、空気はひどく冷えていた。冷たいタイルの上で膝を抱え三角座りをして、沙耶香は可愛らしいキャラクターもののサンダルのつま先を小さな指でぐっと掴む。
悪いのは全部ママだ。
心の中でそう唱えれば唱えるほど、涙が溢れ出してきた。拭い続けたせいで、すっかりまぶたの周りは赤くなっている。柔い肌が、ヒリヒリと悲鳴を上げていた。
「沙耶香ちゃん?」
突然、名前を呼ばれ顔を上げた。上から投げ込まれる白いライトの光が、伸ばされた小さな手の先をひた隠した。
沙耶香は、ふいにその手を取った。男の子の手だ。冷えた沙耶香の手は、ぐっと引き寄せられる。闇の中から光の中へ、まばゆい煌めきが視界を覆った――――
目の前に置かれた皿の音で、沙耶香は自分の意識が遠い場所に行っていたことに気づく。慌ててパスタの盛られた皿を手に取るが、運ぶべき席番号を聞き逃していた。「何番ですか?」と聞けば、「ぼーっとすんなよ」と笑み混じりの店長の声が飛んできた。
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