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――大変だ!この子、熱がある……!
その子は明らかに、衰弱しきっていた。私は洞窟に勝手に入られてしまったことや、人間への恐れを忘れ、必死に薬草や木の実を使って手当を施した。これでも長いこと森に住んでいるのだ。栄養のある木の実の種類、病原菌に良く効く薬草などの知識は豊富なのである。
そして。申し訳ないと思いつつ、その子の体を清潔にするためにお湯をわかして拭いてやった時に気がついた。男の子か女の子かよくわからない見た目の子供だと思ったら、その子供には両方の性器が備わっていたのである。恐らくこれが、この子が集落から追放された、あるいは冷遇されたであろう理由だと思われた。
――時々こういう子が生まれることがあって、忌み嫌われると聞いたこともあったけど……人間は本当に酷いことをする。私と違って、見た目はちゃんと普通の人間なのに……むしろこんなに可愛い姿をしているのに。
三日三晩看病すると。四日目の夜、その子供はようやくまともに意識を取り戻した。そして、洞窟の闇の中に身をひそめるもうひとりに気づき、声をかけてきたのである。
「ありがとう……俺を助けてくれたひと、だよね?どうして、隠れているの?」
彼が目覚める気配を感じて、姿を見られないように岩陰に隠れていた私。それでも手当をされた痕跡と洞窟の中の気配は、誤魔化しきれないようだった。
「ごめんなさい。月明かりの下に、私は出ることができないの」
「どうして?」
「……私の姿が、とても醜いから」
私は、彼がいる集落でバケモノと呼ばれている存在が己であることを明かした。明かしてしまってから後悔した。恐ろしいバケモノと二人きりだなんて知ったら、きっと彼は怯えてしまう。そんな存在に助けられたなんて気持ち悪いと思うかもしれないし、ひどく傷つけてしまうかもしれない。
しかし彼は、全てを聞いても首を振ったのだ。
「お願い、姿を見せて。俺、怖がったりしないよ」
何故。その時、信じてみたいと思ったのかはわからない。ただ洞窟から差し込む月明かりの下で、彼のあまりにも純粋無垢な瞳がキラキラ輝いていることに気づいてしまったからだろうか。
私は誘われるように、明かりの下へと出てしまった。ああきっと嫌われてしまう、そう思いながらも。けれど。
「……すごいね。とっても、綺麗な髪」
その子は私を怖がるどころか――私の髪に、そっと手を伸ばして来たのである。
「俺、シャイン。あなたは、お名前をなんていうの?」
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