バケモノと花束

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「……エリザ、俺……結婚しないといけないかもしれない」  望まぬ性を受けたとはいえ、傍目から見ると少し華奢なだけの普通の少年に見える彼は。たったそれだけのことで、集落の人々から厭まれて、それでも精一杯生きていた彼は。 「……前々から、うちの集落は少し妙というか。女の人が、極端に少ないんだ。村の人は村の人と結婚して子供を産まないといけないっていう約束事があるのにさ。……だから、俺は。女の人として、嫁に出されないといけないかもしれないっていうんだ」 「何それ、酷い……!」  十五歳になった年、再び運命に翻弄されようとしていた。ただ両性というだけで、普通の少年のような感性と性格を持つはずの彼が。村の決まりごとを守るためだけに、望まぬ結婚をさせられそうになっているという。しかも、“女性”としての役目を押し付けられて。  滅茶苦茶な話だった。私は憤慨する。 「そんなのおかしい!村の外から人を呼べばいいだけなのに……そんな決まりを守るために、シャインの女の子になれっていうなんて!好きな相手でもないんでしょう!?それがどんだけ恐ろしくて怖いことなのか、村の人達はわかってないの!?」 「わかってるからこそだと思う。このために、呪われた子供が生まれてきたに違いないと思ってるんだ。ようは、生贄のつもりなんだろうさ」 「そんなのってない!そんなのってないよ、酷いよ……!」  誰かのために、本気で泣けたことなどいつぶりだっただろう。私の眼は、まだ涙を流す仕組みを失ってはいなかったのだと知った。おんおんと声をあげて泣く、私のぬるぬるした髪の毛を抱きしめて。彼は優しい声で、ありがとう、と告げた。 「ありがとう。……エリザだけだ、俺のために本気で泣いてくれるのは。この世で一番綺麗で、愛しいエリザ。……君と一緒になることができたら、どれほど幸せに生きられるだろう」  彼は人間。  私はバケモノ。  寿命も、見た目も、何もかも違う。私達の間に子供を作ることができるかなんてわからないし、そもそも私とい続けて本当に彼の毒にならないかなんてわからない。  それでも、その言葉は――私が生まれて初めて聞いた、涙が出るほど嬉しい愛の告白で。その瞬間、私の心は決まっていたのだ。  私はもう――他には何も要らない。  彼が笑ってくれるのなら、それ以上に欲しいものなんて何もない。  そう、彼と二人で生きる未来が得られるのなら。  私は今度こそ、本当の“バケモノ”になることも厭わない。
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