バケモノと花束

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 *** 「エリザ、エリザ!傷が……背中に矢が……!」 「大丈夫だよ、シャイン。これくらいの傷、私ならすぐ治るから」 「そうだけど、でも……!」  彼を抱きしめて、逃げて、逃げて、逃げて。  気がついた時私は、森を抜け山を超えて――とても綺麗な花畑に辿りついていた。多少手傷は負ったものの、そもそも私は“不死身”である。痛みはあるが、人間の矢ごときで倒れたりはしない。  それでも、自分のせいで傷ついてしまった私に、シャインはぽろぽろと涙を零して心配してくれたのだけれど。 「ごめんね、シャイン。君は、頑張って運命を受け入れようとしていたのに。私の勝手で、君を連れ出してしまった」  私が告げると、彼は一心不乱に首を振る。ああ、なんて愛おしい存在だろう。だって。 「あの時、ちゃんと答えを言わなかったから、伝えるね。……私も、シャインが好き。バケモノでも、シャインのお嫁さんになれるかな?」 「当たり前だ!」  彼は思い切り私に飛びついてきた。私は思わず花畑に転がってしまう。ちょっとだけ傷に響いたけれど、全く気にならなかった。  ヒラヒラと花畑の花弁が舞う。まるで天国にいるかのような美しい光景で、人間の青年と大きなバケモノが二人きり。なんと絵に描いたような奇跡であることか。 「俺が好きになったのは……俺のような“呪われた子”をけして差別しない、初めて会った子供であっても損得を考えずに助けるような……そんな“心”の美しい、女神のような君だ。結婚してほしい、エリザ!今贈ることができるのは、この花畑で作れる花束くらいなものだけど……」  私達は何もかもが、違う。  きっと彼の方が、ずっと早く寿命が尽きて死ぬことだろう。  それでも私は今、その最期の時まで彼を愛することを誓うのだ。彼が青年から中年、いつか老年になり、シワシワの枯れ木のようになって死んでいくとしても。最後の最期まで、私がその手を離すことはないのだろう。 「じゃあ、花冠もつけてね……二人で、お揃いの!」  愛の形は、一つではない。  花畑で今、世界一幸せな“バケモノ”は。愛する人を抱きしめて、心の底から笑ったのだ。
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