同級生の証言

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同級生の証言

中学二年のとき、望月伽耶という女子と同じクラスになった。伽耶は背が高くて、発育が良くて、マドンナというやつだった。いつも本を読んでいて、同級生と話しているところはなかなか見ない、そんな子だ。もちろん俺も話したことはなかった。頭が良いらしいし、近寄り難い。 俺は勉強がてんでダメで、作文なんかが本当に苦手である。部活で高校に行こうとしていたから、なかなか勉強に気が向かなかった。 けれど夏休みの読書感想文が終わらなかったのはさすがにダメだった。 「中田ぁ……なんだこのめちゃくちゃな文章は…」 「ダメっすか」 「ダメだなぁ…」 夏休み明けの放課後、グラウンドで仲間が頑張っている音がする。声が聞こえる。そんな中、俺は国語の高橋先生と3回ほど読書感想文を書き直していた。 「もうこれで良くないすか?先生さっきからめっちゃ呼び出されてますよ」 「いや…あのなぁ……最低ラインってもんがあってな…」 むぅ、と唇を突き出す。何がダメなのか分からない。どうせ選ばれないのだからテキトーだって良いだろうに。 そんな感じで2人でウンウン言いながら作文を書いていたときだった。ガラ、と教室の扉が開いて、望月伽耶が入ってきた。 「お、どうした望月。忘れ物か?」 「あぁ、はい。借りた本を忘れまして」 淑やかな声だった。長い黒髪は低い位置で控えめに縛ってある。高校生みたいな出で立ちであった。 「そうだ、望月。中田の作文見てやってくれないか?俺、呼び出されてて」 「え、ちょ、先生」 「…別に構いませんが」 ビックリして先生を止めると、意外なことに伽耶はストンと俺の向かいに座った。「見せて」と言って俺の作文を読み始める。その間に先生が「任せたな」と言って出ていった。気まずい沈黙が続く。 「……中田くん」 「はい」 「私が今から言うこと書いてください」 「えっ。いや、でも。良いの?俺が書いてないって、バレちゃうだろ」 伽耶は作文上手いんだろ、と小さく口の中で付け足す。伽耶はそれを全く気にせず、「中田くんのレベルに合わせますので」と淡々と作文を言い出した。 慌ててそれを文字にする。伽耶はこの本を読んだことがあるのかな。すらすらと出てくる文を聴きながら、ふとそんなことを思う。 しばらくしたら、あっという間に原稿用紙5枚が埋まった。 「っしゃ〜!!これで部活行ける!ほんとあざます!!」 「いえ。中田くん、本を読んだ方が良いと思いますよ」 「あ、うん……まぁ…国語やばいけどさぁ」 「?いえ。世を生き抜くには知が必要でしょう」 「??」 「……テストのためではなく、フィクションで人間を学びなさいと言っているのです。では、失礼します」 そう言って伽耶は綺麗に椅子を入れて教室を出ていった。彼女とは一回も目が合わなかったけれど、澄んでいて、透明だった。伽耶は何だか難しいけれど、無造作に縛られた髪の毛とか、しゃんとした姿勢とか、清潔感のある装いとか、なんかいいな、と思った。 それからだ、本を読み出したのは。
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