episode 4. 白い無法者《ヴィート・ギャング》

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 見た目は、トレフル・ブランのよく知る、子どものころ作って遊んだアレと変わりない。雪でできた球体の上にやや小ぶりの同じような球体が乗っていて、木の実や葉っぱや小枝で、顔のパーツが作られている。胴体部分に突き刺さった大きめの枝は、いびつな両腕に見える。全長は、せいぜいがトレフル・ブランの腰に届かないくらいか。  しかしその数、数十体ともなると、薄気味悪いものを感じる。  これらが大挙して押し寄せ、村の柵や門を破り、村人から鍬や鎌を奪って村人を襲い、暖炉を荒らして家屋に火を放ち、通り道すべてにあるものを破壊しつくして進軍する。彼らの通った後には、破壊され燃え続ける家屋、逃げることができずに殺された厩舎の家畜、けが人の怨嗟(えんさ)のうめき、恐怖に泣きわめく子どもの声……そういったものだけが残された。 「これは……これは雪だるまなんて、子どもたちの夢のつまった代物(しろもの)じゃない。こいつらは、雪国の無法者(ギャング)だ!」  ユーリの声が、寒さ以外のもので震えた。彼は五人兄弟の長男で、弟妹たちをとても可愛がっている。映像の中には、逃げ遅れて大怪我を追った子どももいた。怒りのボルテージが急上昇したのは無理からぬことだ。 「同感ね」  キーチェも冷たく言い放った。むろん、その冷たさは雪国の無法者たちに向けられている。  何も言わなかったが、トレフル・ブランも同様に熱い何かが臓腑(ぞうふ)を焼く感覚を味わっていた。ソーカルは黙りこくって、もう一度映像を再生している。対策を考えているのだろうか。  イオディスが「なるほど、そのネーミングは良いですね」と静かに言った。 「正直なところ、『雪だるまのようなもの』では恐怖の表現に限界がありまして……王都の人間など、事実として受け止めない者もいるくらいなのです。今後、彼らのことは『白い無法者(ヴィート・ギャング)』と呼ぶことにいたしましょう」  この名称は王国に報告され、以降、王国の公式な記録に白い無法者(ヴィート・ギャング)の名称が登場することとなる。  ソーカルが疑問を発した。 「王都には信じない者もいるということだったが、王都に被害は出ていないのか?」 「今のところは。しかし、山間部から徐々に、町を伝って被害が拡大しています。ゆえに、騎士団の手が足りず魔導士協会に協力を要請し、民間の魔法使いにも自衛策を講じるよう、通達を出しているところです」  先ほどの映像は、事の重大さを伝えるために、パゴニア政府が製作したものだということだった。もっとも、「事実を一部隠匿した」だけのリアルな映像であるということだったが。  イオディスは、被害状況の地図を画像化し、ソーカルに渡した。彼は、ライターの火を絶やさず、じっとその地図を眺めている。やがて、重い声で言った。 「被害が、王都に向かっているな」 「はい、そのとおりです」  イオディスの(いら)えも重い。  住民の少ない山間部から都市部へと白い無法者(ヴィート・ギャング)が手を伸ばすなら、これまでの何倍、何十倍の被害を出すだろう。パゴニア王国が他国の援助を求めたのも()む無し、という状況がありありと理解できた。 「状況はあらかた分かった。襲われた現場を見てみたい。案内してくれるか」  ソーカルの依頼に、イオディスは頷いた。 「準備もありますし、みなさんご到着されたばかりですから、まずは宿泊施設へご案内いたします。その後、もっともここから近い現場へご案内いたしますわ」 「あぁ、それでいい」  その後、石造りの宿舎に着くまで、車は重い沈黙を乗せたまま走り続けた。
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