episode 5. 魔の審美眼

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episode 5. 魔の審美眼

 魔法のすべてをここで語ることはできないが、魔法体系には四つの種別があり、うちひとつが四元素――いわゆる地火風水に類するもので、他方に光陰という考え方が存在する。この言葉は、「光と闇」および「時間」を意味する。前者よりも後者のほうが格段に術式の難易度はあがり、理論上でしか存在しない魔法も多い。俗に言う「時間旅行(タイムスリップ)」などが、その代表例である。  白い闇の眷属(けんぞく)と呼ばれる存在は、この光陰の「光」の部分の魔力を持つと言われ、水陸、国境など関係なく、世界のいずこからか現れ、災いを成す。  これらを討伐するために組織されたのが魔導士協会の平和維持局であり、二~三名の少数チームから、三十名程度の団体まで、班として編成された魔法騎士(アーテル・ウォーリア)たちが、世界中で「闇祓い」や「白き闇の眷属の駆除」と呼ばれる活動を行っているのだ。  今回現れた白い無法者(ヴィート・ギャング)も、白い闇の眷属ではないかと予測されていた。ソーカル一行は、闇祓いの装備をととのえて視察に臨む。  トレフル・ブランたちが案内された村は、王都からはかなり距離が離れていたが、近くにあるそれなりに大きな町までは、移動用魔法陣(テレポーター)を使って短時間で現地に到着することができた。 「どうぞ、こちらへ。ここからは馬車でご案内いたしますわ」  イオディスに導かれ、四人は緑色に金銀の装飾が施された馬車の横まで歩いた。  じっとその馬車を観察するトレフル・ブラン。  二頭立て、通常より体も大きく毛足の長い、品種改良されたであろう馬は、ふつうの生き物のようだ。車体は木製のようだが要所に金物の装飾があり、王家の紋章が刻まれている。トレフル・ブランは、『魔の審美眼(マージュ・ホルス)』(単純にホルスとも)と呼ばれる、対象物にかけられた呪文・紋様呪文による術式を解き明かす魔法を使った。魔導士を目指すならだれでも習得する基本技術だが使う人間によって精度に差の出る魔法である。とはいえ、隠匿されているとか古くなりすぎて痕跡が消えているとかでなければ、これで大雑把にかけられている魔法が判別できる。  この馬車には、御者の視界の確保を助ける、衝撃に耐える、内部の温度を調節する、車輪が雪に埋まらないようにする、など走行の安全性と快適性を守る魔法がかけられているようだった。  トレフル・ブランの様子を見ていたキーチェが、横にやってきた。厚底のブーツにでも着替えたのか、いつもより少し視線が近い。 「あなた、見るものすべてホルスを通して、面白い?」  キーチェは、イオディスのほうを気にしていた。なるほど、あまり念入りに調査していると、魔導士協会の魔法騎士(アーテル・ウォーリア)が、パゴニア王国の調査をしているように見えるかもしれない、というわけか。 「足を止めて悪いね。新しい魔法を見ると、とりあえず詳しく調べてみたくなるのが、悪いくせなんだ」  トレフル・ブランは、ソーカルと話しているイオディスにも聞こえるよう言った。  内容については、完全に真実だ。トレフル・ブランは、世界中の魔法を見て回りたくて魔法騎士(アーテル・ウォーリア)に志願した。それに、先生の教えにもある、(いわ)く「目に見えるほとんどはまやかしだ、いつでも魔法を見抜く目を養え」と。ゆえに、トレフル・ブランが意識して覚えた最初の魔法は、この『魔の審美眼(マージュ・ホルス)』だった。  キーチェにつつかれるようにしてトレフル・ブランは馬車に乗り込み、それを追うようにキーチェ、ユーリも乗り込んだ。話し込んでいたソーカルとイオディスも後に続き、馬車は目的地へ向かって走り出した。
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