episode 7. 白い無法者の正体

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episode 7. 白い無法者の正体

 遠くに雪煙があがっているのを見て、ソーカル一行は臨戦態勢に入った。白い無法者(ヴィート・ギャング)の集団かと考えたのだが、違った。  イオディスが、警備兵を率いてやってきたのだ。彼らは二人一組で、雪上用バイクにまたがって到着した。ほかの三名は、近くの大きな町から派遣された警備兵だという。燃え残った、正確には燃やすことができなかったボタンを、ソーカルはイオディスに手渡した。 「これは……呪具ですね。白き闇の眷属が呪具を使うと?」  イオディスが思案げな表情でボタンに触れている。「違うな」とソーカルが言った。 「眷属が呪具を使うなんて、聞いたことがねぇ。白い無法者(ヴィート・ギャング)は、眷属じゃない。おそらく、魔導人形(ゴーレム)だ」  驚いて息を呑むイオディス。 「魔導人形(ゴーレム)ですって? あの、土や岩で作った土木工事用の魔導具だとおっしゃるのですか?」  一般的に、魔導人形(ゴーレム)はイオディスの認識どおり、土や岩で作るものとされる。巨大でパワーのある彼らの活躍場は、主に建設現場だ。先ほどヴェイネス村でも、瓦礫(がれき)の撤去を行う小型の魔導人形(ゴーレム)を見かけた。一般の魔法使いにもよく知られた、ポピュラーな魔導具のひとつである。別に土や岩でなければ作れないというものでもないので、雪で作った魔導人形(ゴーレム)がいたとしても問題ない。問題なのは、あくまでその使なのだ。  ソーカルは言った。 「どういう方法でかは分からんが、大量生産したゴーレムに『破壊』や『殺戮(さつりく)』を命じて村を襲わせたんだろう。ホルスで見たところ、耐性魔法や強化魔法が付与されていた。あんたも知っての通り、眷属ってのは自然現象みたいなもんで、そういう耐性だのなんだの持って生まれてくるもんだが……」  ソーカルの視線を受けて、トレフル・ブランが引き継いだ。 「眷属の耐性は、無効化することは出来ても引っぺがすことはできない。それができるのは、で魔法を施されたものだけだ」  キーチェも言葉を重ねる。 「村を見て回ったとき、感じました。光の魔法の気配はありませんでしたわ」  どうやら、キーチェは使われた魔法の種類を探っていたようだ。その中で、光の魔法が使われた痕跡のないことに気付たのだろう。  イオディスが戸惑ったように、「では、白き闇の眷属ではないというのは、事実なのですね……」と呟く。 「可能性大、ってとこだな。王都に、大きな魔導士組織があるだろう。そこへ送って分析してもらえ。ハッキリ結果がでるはずだ」 「分かりました。すぐに手配いたしますわ」  イオディスは兵に命じて、一組を転送用魔法陣(トランジスタ)のある最寄りの町へ急がせた。その際、伝達書を持たせるのも忘れない。事務員というだけあって、なかなか手際のいい女性である。 「では、この後はどうされますか? あれは単体だけでしたし、あなたがたの報告では様子をうかがっていただけのようですから、宿舎へお帰りいただいても良いかと思うのですが」  イオディスの提案に、ソーカルは少し考えて了承した。 「そうだな。宿舎に帰らせてもらって、今後のことを検討したい。(ここ)には、耐性を無効化したり弱体化させられる魔導士を配置しておけ。それが崩れれば、殴る蹴るでも倒せる相手だ。戦闘能力は高くない」 「えぇ、そちらも手配いたしますわ。では、いったん村へ戻りましょう」    イオディスは、雪上用バイクの後部にまたがった。  トレフル・ブランたちは、それぞれここに辿(たど)り着くために使った白い獣にまたがる。ソーカルは、恨みがましい目で三人を見上げていた。  こらえきれず、トレフル・ブランはかすかに笑った。 「大丈夫、教官の分もあるよ。言ったでしょ、いい道具貸してあげますって」  トレフル・ブランは第二のポケット(セカンドポッケ)からもう一体、白い獣を出した。  それにしても、とトレフル・ブランは思う。 (この吹雪の中、キーチェの髪型がぜんぜん乱れないのは……)  どんな素晴らしい魔法を使っているのだろうと、ホルスを使おうとしたトレフル・ブランの頭上から、ぼたぼたと雪のかたまりが降ってきた。  キーチェが白金の錫杖を振っている。 「女の子の秘密は、(のぞ)き見禁止よ」  トレフル・ブランは少しがっかりしたが、おとなしく魔法の探求を諦め、白い獣を操ることに専念した。  そのおかげか、一行は無事ヴェイネス村に戻り、さらに中継地点から王都へと帰り着いたのだった。
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