episode 7. 聖獣《イノケンス・フェラ》

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episode 7. 聖獣《イノケンス・フェラ》

 翌日の午後には、王都の魔導士協会からの鑑定結果が届いた。 「やはり、魔導人形(ゴーレム)か……」  ソーカルはつぶやき、ライターの炎の中にゆらめく鑑定結果をじっくり眺める。  イオディスが宿舎まで来られないということで、魔法通信連絡網(通称、高速通信(ファルコ))を使って王宮から情報を送ってくれたのだ。  割り当てられた宿舎は、なかなか快適な観光客用のホテルで、トレフル・ブランたち四人は、昼食を済ませた後、ラウンジに集まって情報の検証を行っていた。 「さて、次はどう動くかな」  ソーカルのセリフには主語が抜けていたが、「我々はどう動くべきか」という意味だとトレフル・ブランは解釈した。 「そうですね、とりあえず小論文を仕上げて、試験の課題『濾過(ろか)結晶』の製作に入るべきですね。三人とも、製作の課題内容はバラバラだから、早めに目途をつけないと」  よどみなく答えたトレフル・ブランに、「お前らの試験の話じゃねーからな、これ」とソーカルが呆れてため息をもらしている。  トレフル・ブランは肩を竦めた。 「冗談ですよ。とりあえず、さっきの情報と、昨日イオディスさんからもらってた襲撃地点をマークした地図、俺たちにももらえませんか?」 「お前が言うと、まったく冗談に聞こえねぇんだがな。おい、お前ら。呪具出せ」  三人はそれぞれ鏡を取り出し、ソーカルから情報を受け取った。そして、鏡面を熱心に覗き込む。  その様子を見ながら、「そういえば気になってたんだが」とソーカルが切り出した。 「トレフル・ブラン。お前、あの白い眷属、どうやって亜生物にんだ?」  トレフル・ブランは瞬きした。あの時は()かれなかったが、なるほど、疑問には思っていたらしい。  魔法騎士(アーテル・ウォーリア)の中には、白き闇の眷属を無力化できる者がいるが、これを人間の役に立つ亜生物――魔獣としての側面と生物としての側面を併せ持つ魔性の生き物――として再生する、難解な術式がある。そうして生み出された亜生物をを聖獣(イノケンス・フェラ)と呼ぶが、これを作り出せる魔導士はとても希少な存在で、おそらくこの技術だけで一生暮らしていけるだけの財を築くことができるだろう。  つまり、一介の見習い魔導士が使うには分不相応に高度な魔法だったのだ。 「これを使ったんですよ」  トレフル・ブランは、第二のポケット(セカンドポッケ)から、美しく輝く小さな玉を取り出し、いくつかテーブルの上に並べていった。転がって落ちそうになったものを慌てて受け止めると、キーチェが白いハンカチを敷いてくれる。 「なんてキレイな宝石の魔除け(アミュレット)ですこと。素材の良さに加え、素晴らしい加工技術ですわ!」 「まぁ作ったのは俺じゃなく、先生だけどね」  宝石の中に術式を封印した特別な呪具で、先生は『生命(いのち)の核』と呼んでいた。  トレフル・ブランが頷いたので、ソーカルもひとつ手に取った。そして、驚愕のあまり低い唸り声をもらす。 「これは……ホルスごときじゃ解明できない、超複雑な術式が織り込んであるぞ。見たこともない呪文も刻まれてるし、この魔法陣、いったい何層あるんだ!?」 「たしか十三層って言ってましたね。眷属を亜生物に加工する専用の超ハイパー高性能な呪具だから、扱いには注意しろって渡されました」  一同が唖然として、トレフル・ブランを……その背後に存在する「先生」を見つめる。
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