episode 8. 事件の奥底にうごめくもの

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episode 8. 事件の奥底にうごめくもの

 夕刻。作戦室として借り受けたホテルの一室に、近衛騎士団イオディス・トーレと二名の部下を迎え、改めて作戦会議が行われた。  白い壁に、襲撃地点の地図が投影されている。地形上の赤い印が、襲撃のあった地点を示す。山間部に点在していたそれは、明らかに王都への道を辿って集約しつつある。 「というわけでだ。襲撃地点を絞って、待ち受ける」  と、ソーカルが結論付けた。  イオディスも頷く。 「えぇ、それがよろしいかと。後手に回るばかりでは被害が拡大する一方です。あなたがたのおかげで、あれが魔導人形(ゴーレム)であることも判明しましたから、騎士団のほうでも打つ手はありますわ」  ソーカルは地図上のいくつかの地点に、点滅する光を放って、新たに印をつけた。 「俺たちが推測した、敵の狙いは二つ。最終的には王都を襲撃するとして、その途中段階の狙いは、ひとつ、この国の人々を混乱に陥れる。ふたつ、交通の要所を落として対応を遅らせる」  これまで襲われた町でも、建物と同時に移動用魔法陣(テレポーター)転送用魔法陣(トランジスタ)が破壊されていた。ゆえに現在、人や物資の輸送に支障を来たしている。ソーカルが光点で示したのは、特に移動用魔法陣(テレポーター)が設置されている町である。 「おそらく、これらの町は敵のターゲットに含まれているだろう。で、俺たちの班だが、ここ、シンセンスディート橋で待機しようと思う」  イオディスは白い指をあごに当て、数秒の思考ののち「騎士団の精鋭も派遣いたします」と申し出た。 「おっしゃるとおり、ここは我らがパゴニア王国の交通の要衝。ここを寸断されれば、市民の生活に、大きな混乱をもたらすことになるでしょう」  パゴニア王国は、南北に長い国だ。東は他国との国境に接した森林地帯、西は複雑な地形を持つ海岸線が続く。国の形は瓢箪(ひょうたん)に似ていて、そのくびれの部分にあたる内海には島嶼(とうしょ)群が存在し、いくつもの橋・船・移動用魔法陣(テレポーター)転送用魔法陣(トランジスタ)が設置され、人的・物的資源が行きかう要衝であると同時に、王国きっての観光名所でもある。短い夏には、弧を描いて伸びるいくつもの橋の優雅さと、島の緑と青い海が、観光客の目を楽しませる。まさに、パゴニア王国を象徴する地域なのだ。  その中で、最も古く、最も有名な橋がシンセンスディート橋である。
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