episode 8. 事件の奥底にうごめくもの

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「騎士団長自らお出ましとは、パゴニア王国もいよいよ本気だな」  ソーカルはつぶやき、イオディスから譲り受けたシンセンスディート橋の資料と、周辺地形を壁に投影して眺めていた。  キーチェは、呪具の手入れをしていた。海に囲まれた島々、つまり水の多い土地ということは、キーチェにとって戦いやすい地形である。準備に余念がない。  ソーカルの背後に立って地図を眺めていたユーリが、ふと思いついた様子で声をあげた。 「これだけのことをする、動機はなんだろう?」  トレフル・ブランとキーチェは顔を見合わせた。言われてみればそうだ。人々の命と生活を脅かし、一国を奮起させるその理由とは、一体なんだろうか。  ふぅ、とソーカルが煙を吐き出した。 「憎悪、だろうよ。今回の件は、世界が生み出した白い闇の仕業じゃない。この世界に生きる人間の心の闇が生み出した、強い憎悪が根底にただよっている」  煙はゆらゆら揺らめき、天井に届くまえに香りだけ残して立ち消えていった。 「どうして、そう思うんですか?」  ユーリの真っすぐな視線を、ソーカルは受け止めようとしなかった。 「いずれ、お前たちも感じるようになるさ」  トレフル・ブランたち三人は顔を見合わせたが、だれも続く言葉を探すことはできなかった。  鼻腔をくすぐる煙草の香りが、わずかに苦く感じる。
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