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ひとまず、これで一通り泊まり込みの基地が出来上がったので、交代で見張りをしつつ、任務にあたる。
まずは、ソーカルが見張りに出た。三人はそれぞれふたりずつで当番をこなすよう言われたので、残ったひとりが休息と食事の支度など基地管理を担い、ソーカルが当番のときだけ課題に取り組むことに決めた。
今は、ユーリの課題の真っ最中である。
「うぅ……嘔吐薬なんて、思いっきり草を使わないとできないやつじゃないか。俺もなにかの結晶が良かったな」
ユーリはぼやきつつ「新薬草学分類図鑑」をめくっている。めくっているだけで、読んではいないようだ。
トレフル・ブランは退屈を持て余しながらその様子を見ていた。
(作り方、載ってるんだけどなぁ)
ページを読み飛ばしているせいでユーリが気づかないものだから、話が先に進まないのだ。
嘔吐薬は、異物・毒物を飲み込んだ時、それを素早く吐き出させるための応急処置の薬である。ユーリの苦手な薬草の調合が必要だが(おそらく、苦手だと分かっているからこの課題が割り当てられた)、必要な薬草は三種類だけで、調合自体は難しい作業ではない。正しい原料を選び、乾燥させ、正しい配合で調合すれば完成する、比較的易しい課題であるといえる。
唸っているユーリに聞こえないよう、トレフル・ブランはキーチェに話しかけた。
「ねぇ。どの程度までならヒント出してもいいと思う?」
キーチェは厳めしい顔を作り、
「全部自分で!」
と言ったが、すぐ破顔した。
「助け合うことも、研修の目的のひとつですものね。きちんと教官の許可を得て、不要なものも含めて十種類ぐらいの薬草を並べてあげるっていうのはどうかしら? 今は任務の途中だし、原材料を買いに行く余裕がないんですもの」
ソーカルも了承したので、トレフル・ブランはキーチェの提案に乗った。第二のポケットから、今度は薬草・植物の種を乾燥させたものを取り出し、ユーリの前に並べる。
ユーリは絶望的な表情で、「この葉っぱと実はなにかな?」とトレフル・ブランを見上げてくる。
「この中の三種類が、嘔吐薬に必要な原材料です。すでに乾燥させてあるから、すぐにすりつぶして調合できる。正しいものさえ選べば、三日間もあれば完成するよ」
「そーかそーなのかあああぁ! それで、トレフル・ブラン! 正しい材料はどれなんだ!?」
ユーリが両肩を揺さぶってきたので、トレフル・ブランは、その脛を蹴っ飛ばした。
「イタイ」
「教えるわけないでしょ。あとは自力で頑張ってね」
と言いながら、銀の万年筆を取り出し、こっそりとユーリの「新薬草学分類図鑑」に折り目をつけておいた。調合方法の載ったページである。
キーチェは気づいていたようで、あとから「あなたって、意外とおせっかいよね」と耳打ちされた。
褒められたのかどうなのか、判断に迷うところだ。トレフル・ブランは、頬を掻いてごまかした。
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