episode 10. 仮説

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episode 10. 仮説

 弧を描いて、冬の海に浮かぶ島々を縫うように走る石橋。その(たもと)に、煙草をふかしつつ佇むソーカルの姿を見つけた。『水の屈折結界』がきちんと作用しているため、トレフル・ブランは彼を見つけるために、『温度検知魔法』を使わねばならなかった。  ゆっくり歩いて近寄る。むろん、トレフル・ブラン自身も『水の屈折結界』をまとっていたが、足音と気配で自分だと認識されるだろう。 「教官、少し話があるんですけど」  ソーカルはトレフル・ブランを一瞥(いちべつ)したが、すぐに視線を前方に戻し「なんとなく、嫌だ」と子どもっぽく言った。  トレフル・ブランは携帯食料を渡すと、「話っていうのは……」と、ソーカルの発言を無視して話を進めた。想定の範囲内だったのか、文句を言わずソーカルは耳を傾けている。 「魔導人形(ゴーレム)たちのことですが、ひとりで作っているにしては数が多すぎると思いませんか?」  ヴェイネス村を襲った魔導人形(ゴーレム)は、ざっと三十体ほど。それより以前に襲撃された村ではもっと数が少なかったというし、本日襲撃を受けた町では五十体を超えていたという証言も出ている。つまり、数が増えていると推測できる。 「組織的な犯罪だって言いたいのか?」  ソーカルの問いに、トレフル・ブランは耳飾りをもてあそびながら「表現が難しいんですが……」と前置きをして話し始めた。 「雪だるまの、見た目だけ想像してください。素朴で、本当にそのへんの子どもが作ったものと変わりないでしょ? それって、そういう姿かたちに思い入れがあるから、その見た目になったんじゃないかと思うんです」  魔導人形(ゴーレム)は土や岩で作るのが一般的だが、それ以外の材料もむろん使用可能だ。たとえば、森林で育ったトレフル・ブランが製作するなら、植物を使った「植物人間」に近い見た目の魔導人形(ゴーレム)が出来上がりそうな気がする。 「単に雪でゴーレムを製作するのだとしても、ふつうならもうちょっと怖そうな見た目にしますよ。あのちょっと不格好な雪だるまを作っているのは、少なくともひとり、だと思います。ただ、映像見てて、ちょっと気になるものがあって」  話しながらふたりは移動し、橋桁(はしげた)の陰で最新の映像を再生した。  ある場面で「止めて」とトレフル・ブランが合図した。そして、静止した画像の中でそれを示す。 「まず、これ。俺たちが見た、ボタンのついてる雪だるま。こいつが司令塔の役割を果たしているんでしょう。たぶんボタンで、製作者の指示を受け取って、ほかの雪だるまに命令を伝達してるんだと思います」 「確かにな。単純な命令なら長時間動かせる雑魚ゴーレムでも、数が増えればコントロールは難しくなる。ある程度複雑な命令をこなせる個体を作っておいて、他のを操作させている可能性はあるな」  ソーカルは答え、「それで?」と続きを促す。  トレフル・ブランはかすかに笑った。 「これだけの数、動かすの面倒くさいじゃないですか。で、思ったんですよ。これだけの数、作るのも面倒くさいなって」  ソーカルが肩眉を跳ね上げた。 「まさか、ゴーレムにゴーレムを作らせてるって言うのか?」
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