episode 15. パゴニア王国の闇

1/2
前へ
/70ページ
次へ

episode 15. パゴニア王国の闇

 今を(さかのぼ)ること十五年、パゴニア王室に双子の王子が生まれた。しかし、双子の弟王子は、病弱であったため生後間もなく病没した。その後、王も病を発病し、長患(ながわずら)いの末、二年前に崩御(ほうぎょ)。もともと体の弱かった王妃が息を引き取った数か月後の出来事だった。  こうして立て続けに王も王妃も失ったパゴニア王室は、若干十三歳の双子の兄王子・コラルグランツを擁立(ようりつ)。前国王の弟である摂政と騎士団長が両側から政戦両略を支え、現在のパゴニア王室の(まつりごと)を執り行っている。 「……というのが、パゴニア王室の歴史だ」  ソーカルが語り終えると、ユーリが「今の話と今回の事件、なにか関係が?」と尋ねる。  キーチェは口の端をあげ、「今の話、きちんと聞いていたの?」と現王の名前を繰り返す。 「現在の国王は、コラルグランツ。そして、王国へ復讐する正当な権利を持つと名乗った少年は、ペルルグランツ……接点が見えてくるというものじゃありません?」  ユーリは眉をしかめた。 「それは、双子の弟の王子が、この国に害をなそうとしているってことか?」  五人の弟妹を溺愛し兄弟仲の良さを自慢するユーリには、理解しがたい事態なのかもしれない。  トレフル・ブランは、銀の万年筆を振った。 「ま、公式に発表されていない歴史があったってことだね。こういうストーリーはどうかな?」  今を(さかのぼ)ること十五年、パゴニア王室に双子の王子が生まれたが、双子の王子は後継者問題が発生しやすく不吉であるという理由から、当時の王は後から生まれた王子――すなわちペルルグランツを暗殺するように命令。このことに心を痛めた王妃は、心と体を病む。ところが、このペルルグランツは生き延びていた。まだほんの赤子の彼を殺すには忍びないと、命令を受けた兵士がひっそりと城外へ逃がしていたのだ。  その後、歴史は公式発表と同じ道筋を辿り、摂政と騎士団長に補佐された若き王・コラルグランツが即位する。  空中に架空の歴史を筆記していたトレフル・ブランは、「どう? ありそうじゃない?」と意地の悪い笑い方をした。  キーチェとユーリはどういう反応示したものか戸惑っていた。ソーカルだけが無表情を貫いている。  そのソーカルの視線が、入り口のほうへ移動した。 「ほぼ正解じゃな。及第点だ」  騎士団長のトォオーノ・グラヴィティだった。  三人は飛び上がらんばかりに驚いたが、ソーカルは「騎士団長自ら、どういったご用で?」と平然としたものだ。  ここは、ソーカル一行に与えられた宿舎たる一流ホテルの会議室である。依頼の内容からも、王室関係者が出入りして不自然な場所ではまったくない。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加