episode 16. 幸運のお守り

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 翌日。一行は、国の北側に移動した。  今や、シンセンスディート橋を含む王国中央部の島嶼(とうしょ)群には騎士団の精鋭が常駐し、南北を往来する人や物資に対して厳重な警戒が敷かれている。人間を運ぶための移動用魔法陣(テレポーター)、物資を運ぶための転送用魔法陣(トランジスタ)も同様である。  すでに敵が王国の南側に移動している可能性については、高くないと判断された。シンセンスディート橋への襲撃後、間を置かず、騎士団による警備が敷かれたからである。よって、襲撃は王国の北側から行われるものと仮定し、一行は北側の移動用魔法陣(テレポーター)がある比較的大きな町に滞在することになったのだ。  ベレルという名のこの町も、北側に大きな港を持つ港町である。  色とりどりの外壁がカラフルな三角屋根の家が続く町並みは、この国の古くからの木造建築様式を今に伝える伝統工芸でもある。本日は晴天で、青く高い空の下、絵本のような町並みは、観光として訪れたのなら心躍る光景だろう。  だが、トレフル・ブランたちは観光客ではない。イオディスからもらった地図をもとに、二チームに分かれてざっと町を見回り異常がないことを確認すると、警備兵と連絡を取って、郊外にあるアパートメントに滞在することにした。八つの部屋があるが、今は誰も入居していない古い建物だそうだ。見晴らしも良い。  有事の際には合図してもらうことにして、一行はアパートメントでの滞在準備を調える。移動先で適切な滞在場所を見つけること、そこを安全に保つことも、魔法騎士(アーテル・ウォーリア)に求められる技術のひとつである。 「動くなら、夜かな?」  すっかり聖獣(イノケンス・フェラ)がお気に入りになったユーリは、小型化した聖獣――オリオンを懐に入れてほくほくと暖を取っている。オリオンというのは古くから伝わる星座の名前だが、「なんかキラキラしてるから」という理由で命名したそうだ。たしかに、金色の毛皮とらんらんと輝く赤い瞳を持つ獣にはふさわしいかもしれない。  トレフル・ブランも、そろそろ餌の時間かなと、ブランカを呼び出した。白いふさふさした毛皮を持つオオカミのような聖獣(イノケンス・フェラ)は、ゆったりと尻尾を振って、トレフル・ブランの手の甲を舐めた。その口元に、干し肉を運んでやる。 「今日は晴天だからね、夜のほうが襲撃しやすい気もするけれど、奇襲ってのは明け方にも多いし。また交互で見張りに立つことになるんじゃないかな」  前回と違い、今回は聖獣(イノケンス・フェラ)を使うこともできるので、少しは負担が軽くなるはずだが。 「教官とキーチェは? 見回り?」 「そう。この建物に、侵入者用の結界を張るってさ」  結界、というと防御結界のような強固なものを想像しがちだが、そういったものは得てして複雑な術式を要する。また、範囲が広くなるだけ消耗する魔力も大きい。おそらく、「侵入者を察知する警報器」のような仕掛けを施しているのではと思われる。  ブランカがぴったりと体を寄せてくる。「背中を撫でてほしい」という合図である。 (ユーリのも人懐っこいやつだけど、俺のとこも甘えん坊なのが来たなぁ)  そう思いつつ、やはり甘えられると構ってやりたくなるトレフル・ブランであった。
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